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ヴァルカン・テンドリクスの華麗なる詐欺
最初に言っておくが、この計画は完璧だ――
おれの頭の中で、そう何度も繰り返していた。
惑星ジャラコンに足を踏み入れた瞬間から、空気がピリついていた。
あの空気は独特だ。暴力と金の匂いが一緒に漂う惑星。
そこに集うのは、金のためなら魂でも売るような輩ども。
だが、それはおれの居場所でもあった。
おれの名前はヴァルカン・テンドリクス。
宇宙一の詐欺師であり、この銀河で最も信用できない男だ。
今日は、その信用のなさを最大限に使って、この惑星の全てをおれの手中に収める日だ。
おれの標的は、惑星ジャラコンの絶対的な支配者である『ゴルザン・コルダス』。
彼の豪華な宮殿に潜り込んで、伝説のアストロクリスタルを手に入れる計画だ。
ゴルザン・コルダス――
それは、ジャラコンの誰もが恐れる名前だ。
彼の目には宇宙の富が映っているが、心には冷たい虚無しかない男。
だが、その男にも唯一の弱点があった。それは、「名声」だ。
彼は、自分が全宇宙の支配者であることを周りに知らしめたいという欲求に取り憑かれていた。
そこで、おれの出番だ。
おれは宇宙中で名の知れた『名誉騎士リューク・サノス』として彼に近づいた。
その名前が本物だって? まさか。
リューク・サノスなんて、ただおれがでっち上げた存在だ。
完璧に作り上げた偽の経歴と、豪華絢爛な騎士の鎧を身に纏って、ゴルザンに接近した。
宮殿の大広間に足を踏み入れると、ゴルザンはまさにその巨大な玉座に座っていた。
金と宝石で飾られたその玉座は、彼の権力を象徴していたが、おれにとってはただの「虚栄」にしか見えなかった。
ゴルザンは興味深げにおれを見つめた。彼には分かっていない。
目の前にいるのが、彼のすべてを奪う詐欺師だとは夢にも思わない。
「おお、名誉騎士リューク・サノスよ。
銀河で名を馳せるその勇敢な姿、素晴らしいではないか」
ゴルザンはそう言って笑った。
その笑顔は冷たい。
だが、おれはそれを上手く利用する。
「コルダス様、私は銀河の平和と繁栄のため、この地に参りました」
おれは堂々と宣言した。
その瞬間、部屋中の目がこちらに集まる。
おれは、重圧感を感じつつも、内心でニヤリと笑った。
この注目こそが、おれが欲しかったものだ。
「そして、私はあなたのために『特別な贈り物』を持参いたしました」
そう言って、おれは手元のケースを開いた。
その中には、まばゆいばかりの青い光を放つ『偽アストロクリスタル』が収められていた。
本物と区別がつかないほど精巧に作られた偽物だが、ゴルザンにはそれを見分ける目がない。
ゴルザンは目を輝かせた。
その目には欲望と称賛が入り混じっていた。
おれはその隙を逃さず、彼にクリスタルを手渡した。
「このクリスタルは、宇宙の力そのものを秘めております。
あなたの名声と富を永遠のものにするでしょう」
おれは静かに囁いた。
ゴルザンはクリスタルを受け取り、まるで子供のように嬉しそうにそれを眺めていた。
その瞬間、おれは勝利を確信した。
ゴルザンが偽物に気づくことはない。
それどころか、彼はそれを自慢し、宇宙中に見せびらかすだろう。
その間に、おれは本物のアストロクリスタルを手に入れて、ジャラコンを後にする計画だ。
――だが、その時だ。
突然、大広間の扉が乱暴に開かれた。
そこには一人の男が立っていた。
彼の姿を見た瞬間、おれの心臓が凍りついた。
「名誉騎士リューク・サノス…本物のリューク・サノスだ!」
おれは心の中で叫んだ。
何でこんなタイミングで『本物』が現れるんだ?
そんなことがあるはずがない。
おれは計画を完璧に練り上げたんだ。
だが、どうやら運命はおれを試しているらしい。
リューク・サノスは鋭い目でおれを見つめ、そしてゴルザンに向かって叫んだ。
「その男は偽物だ! 私の名を騙る卑怯者だ!」
大広間の空気が一瞬で張り詰めた。
ゴルザンはクリスタルを握りしめながら、おれを見つめた。
その目には疑いが浮かんでいた。
おれは一瞬の逡巡の後、笑みを浮かべた。
「これは誤解だ。あなたに証明してみせましょう」
そう言って、おれはリュークに向かって歩み寄った。
彼の目には怒りが宿っていたが、おれは冷静さを保ったまま彼の手を掴んだ。
「リューク・サノス、あなたが本物ならば、これを持ってみせろ」
おれは、ゴルザンに渡した偽クリスタルの代わりに、本物のクリスタルを彼に押しつけた。
リュークは驚いた様子でクリスタルを見つめ、そして、それが何なのかに気づいたようだった。
その瞬間、彼の顔は青ざめた。
本物のアストロクリスタルは、触れた者の心を暴く力を持っている。
リュークの正体、それは銀河連邦の秘密警察のスパイであり、この宮殿に潜入していた工作員だった。
「さて、皆さん」
おれは冷笑を浮かべながら、大広間を見渡した。
「この男が何者か、お分かりだろう。彼は、ゴルザン様を陥れようとする敵なのだ!」
その瞬間、大広間のガードたちがリュークに向かって一斉に銃を向けた。
リュークは驚きと恐怖の入り混じった顔でおれを見つめていた。
おれはその目を見て、勝利を確信した。
「この宮殿には、裏切り者など必要ない」
ゴルザンは冷たく言い放ち、手を振り下ろした。
次の瞬間、銃声が響き渡り、リューク・サノスは倒れた。
おれはゴルザンに深々と頭を下げ、そして、偽クリスタルを再び彼に手渡した。
ゴルザンは嬉しそうに笑った。
「ありがとう、リューク・サノス。本物の名誉騎士よ」
おれは微笑みながら、心の中でこう呟いた――
『詐欺の本質は、真実を作り出すことにある。
そして、その真実が偽物でも、誰も気づかなければ、それは本物になるんだ』。
おれは、再び完璧な詐欺をやり遂げたのだ。
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