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ヴァルカン・テンドリクスの新たなる挑戦
最初に断っておくが、おれは何もしくじったわけじゃない。
運が悪かっただけだ。
それに、運が悪いのはおれのせいじゃない。
それでも、今この瞬間、おれは死ぬほどのピンチに陥っている。
どこにいるかって?
『サンクタム=マクレガ』。
連邦最凶の監獄惑星だ。
逃げ出した囚人も、ここで反乱を企てた革命家も、皆ここでお仕置きされる。
そこに、何故かおれがいる。
いや、正確には監獄の中じゃなくて、惑星自体が監獄だ。
全域がシステム化された警備ロボットでぎっしりで、呼吸するだけでおれのデータが保存されてるっていう寸法だ。
さあ、どうしてここにいるかっていうと、『アルファトリス・ダイオド財団』という連邦最大の武器商人から借りを取り返すためだ。
簡単に言うと、おれの目的は連中の重要なデータベース――
『ザルケノス・プロトコル』を盗み出すこと。
それを盗めば、おれは武器商人どもから巨額の金を引き出せるし、奴らに大打撃を与えられる。
でも、問題が一つ。
おれは今、監獄惑星の真っ只中で、足枷をつけられたまま。
夜の監獄惑星は、静寂が支配する。
暗闇の中で監視ドローンが低く唸りを上げ、電撃フェンスがわずかに光っている。
おれの頭には一つだけ、どうやってこの惑星から出るかのプランがあった。
それが叶えば、おれは銀河中のどの財団だろうと、金持ちだろうと、詐欺し放題になる。
だから、おれはここにいるんだ。
おれは足枷を見つめた。
この足枷、どうにも硬すぎる。
それをつけたまま動くたびに、監視システムに追跡される。
だが、こんなものはおれにとって問題じゃない。
おれは小型の工具を取り出し、足枷の電子錠を巧みに解除した。
だが、それと同時にアラームが鳴り響いた。
「まじかよ、ちょっと待て!」
おれは工具を投げ捨て、廊下を駆け出した。
警報が鳴り響き、ドローンがこちらに向かって飛んでくるのが見える。
光の筋が廊下を照らし、追跡が始まった。
おれは惑星の地下施設へと続く階段を見つけ、飛び降りた。
『地下シティ=エクサーヴ』。
ここは監獄惑星に存在する唯一の「自由区」だ。
金さえあれば何でも手に入る――
おれの目の前には、暗闇の中で商売に勤しむ奴らがいた。
おれは息を切らせながら、そこで唯一知っている顔を探した。
「おい、『ティーファ・ガンベル』!」
彼女は、おれが最初に会ったときには偽のパスポートを売っていた。
だが今、彼女はこの自由区の女王だ。
ティーファはおれを見るなり目を細めた。
「おやおや、テンドリクスじゃないか。ずいぶんとご無沙汰ね。どういう風の吹き回し?」
「助けが必要だ、ティーファ」とおれは言った。
「連中に見つかる前に、なんとかして逃げたい」
ティーファはしばらくおれを見つめていたが、ニヤリと笑った。
「あんたが困ってるっていうのは面白い話ね。でも、助ける理由が見当たらないわ」
「そりゃそうだろうが、こいつを見ろ」
おれは懐から小さなホログラムプロジェクターを取り出し、彼女に見せた。
それはザルケノス・プロトコルの一部だった。
ティーファの目が見開いた。
「それは…」
「そう、これが全部揃えば、連邦中の全財団を揺るがせることができる。だから、お前の助けが必要なんだ」
ティーファは少し考え込んだあと、ため息をついた。
「いいわ、助けてあげる。でも、私にも分け前があるって約束してちょうだい」
おれは頷いた。
交渉は成立した。
ティーファはおれを連れて、自由区の奥へと向かった。
そこには巨大なコンテナが並んでいた。
「ここにあるのは、地下シティの脱出ポッドよ。でも、連中に見つからないようにしなきゃね」
ティーファがコンテナの扉を開けた瞬間、再び警報が鳴り響いた。
彼女は振り返り、唇を噛んだ。
「時間がないわ!」
「任せておけ」
おれはポケットから小さなデバイスを取り出し、コンテナのセキュリティを解除した。
このデバイスは、以前おれが別の惑星で騙し取ったものだった。
電子信号を無効化し、一時的にシステムを混乱させることができる。
コンテナの扉がゆっくりと開き、中に脱出ポッドが姿を現した。
「行くぞ、ティーファ!」
おれたちは脱出ポッドに乗り込み、急いで扉を閉めた。
その瞬間、ドローンの光がコンテナの隙間から差し込んだが、間に合わなかった。
おれたちのポッドはすでに打ち上がり、監獄惑星の重力を振り切っていた。
「おいおい、本当に出られたのか?」
おれは後ろを振り返り、ティーファに笑いかけた。
「さあ、金を手に入れる時間だ」
ティーファはため息をついたが、その目には笑みが浮かんでいた。
「相変わらずね、ヴァルカン。次はどんな計画を考えてるの?」
おれは星々が広がる宇宙を見つめ、ニヤリと笑った。
「次は、宇宙そのものを詐欺にかけてやるさ。楽しみにしてろ」
おれはこうして大脱出劇を完遂した。
こんな状況でも、おれの詐欺師としての手腕が鈍ることはない。
『ヴァルカン・テンドリクス』の名は、銀河中に広がり続ける――
もちろん、良くも悪くもな。
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