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ヴァルカン・テンドリクスの古代の詐欺
深い森林の闇、夜も昼も関係なしに漂う静寂の中で、おれは笑った。
ヴァーク・リマリスと呼ばれるこの古代の惑星には、伝説の金脈が眠るという噂があったが、その実態はどこにも見当たらない。
未開の動物たち――まあ、地球人が見たら正確に「知的生命体」などと呼ぶだろうが、奴らのうちでヤガニ族と名乗る原始的な連中が、おれのターゲットだった。
彼らには何もない。
火を使い始めたばかり、言語も未発達だ。
だが、そういった未開の民が何を信じるかって?
恐怖と神秘だ。
おれは銀河で詐欺をするために数々の装置を揃えていたが、今回ばかりは簡単でいい。
大げさな霧を作り出す装置、あと少しの巧妙な話術さえあれば十分だ。
夜が更け、ヤガニ族の焚き火が立ち上る頃、おれは彼らの集落に姿を現した。
おれは白く輝くローブをまとい、あたりに静かな霧が立ちこめるよう装置を作動させた。
ヤガニたちは一斉におれを見つめ、その目に神秘的な光を宿していた。
「我は森の精霊、ヴァルカノス」とおれは宣言した。
この惑星の動物どもがどうやら信じている精霊という概念にすり替えた名前だ。
ヤガニたちは一斉にひれ伏し、耳をぴくぴくと動かしながらおれの言葉を待っていた。
「この土地には黄金が眠っている。我がその場所を示してやろう。ただし、代わりに貢物を差し出すのだ」
そう言った瞬間、ヤガニ族のリーダーであるガルロスが立ち上がった。
彼の顔は険しく、何やら不満がある様子だった。
彼が何か言葉を発しようとした瞬間、他のヤガニたちはざわつき始め、ガルロスはおれに対して反旗を翻す気配を見せた。
まずい。
このリーダーが全員をまとめて反対するようなことになれば、計画は全て水の泡だ。
どうにかしてヤガニ族全体を丸め込む必要があった。
その瞬間、おれはふと近くにいたヤガニ族の子供の手に握られた物に目を奪われた。
それは、あの伝説的なアルガルの実だ。
この惑星の動物たちにとっては極めて重要な儀式に使われる果実であり、その果実には"未来を視る力"があるとされている。
「見よ!ガルロスよ、そしてヤガニたちよ!」
おれは高らかに叫び、子供から実を奪い取るようにして掲げた。
「我がこのアルガルの実により、お前たちの未来を示そう!」
ガルロスとヤガニたちは驚きと共に息を飲んだ。
おれはそれから、装置の一部を用いて実から青白い光が発するよう細工し、それを彼らに見せつけた。
「これこそが黄金の印だ!我を信じ、貢物を捧げよ。さすれば、黄金はお前たちのものとなる!」
ヤガニたちは次第に静まり返り、その後には歓喜の声が上がった。
ガルロスさえも、青白い光の前に膝をつき、恐れと敬意の表情を浮かべた。
彼は仕方なく手を挙げ、おれに従う旨を宣言した。
その瞬間、おれの心の中で勝利の笑みが広がった。
ピンチを逆手に取り、彼らを完全に丸め込むことができたのだ。
数時間後、ヤガニたちは集めた貢物――それはこの惑星で取れる高価な鉱石や珍しい植物の束だった――をおれに渡し、おれは彼らに「黄金の場所」を示してやった。
それはもちろん、何もないただの空き地だったが、ヤガニたちは信じ切ってその場所を掘り返し始めた。
おれはその場を去り、背後でヤガニたちが無駄な労力をかける音を聞きながら、そっと笑った。
「詐欺ってのは、いつだって信じる心から始まるもんだ」
再び霧が立ち込める中、古代の惑星ヴァーク・リマリスをあとにしたおれの足取りは、軽やかで止められない高揚感に満ちていた。
どんなピンチだろうと、このヴァルカン・テンドリクスには敵わない。
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