円歌と葵

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円歌と葵

「葵……好き」  葵の首へ腕を回したら、自然に唇と唇がくっついて、初めてしたみたいに葵の唇は震えていた。また泣きそうになってしまって、何とか我慢したはずなのに私の頬に流れる雫。 「……泣かないで?」  私の頬を伝う涙は葵のものだった。葵は自分の腕で涙を拭くと私を強く抱きしめた。 「ごめん、嬉しくなっちゃって……」 「泣くほど嬉しいの?」 「うん。だって……ずっと、こうしたかった……円歌のこと、ずっと、好きだったから」  苦しいくらい強く抱きしめられて、心も苦しいくらい締め付けられた。もっと早く気持ちを伝えれば良かった。これからは後悔しないように、ちゃんと想いを伝えていきたい。 「ごめん、なんか重いよね……」 「ううん、嬉しいよ。葵、もっと愛情表現して見せてよ」 「……うん……円歌、好きだよ」  葵の頬を撫でてゆっくりと一つ、キスをすると葵に笑顔が戻った。お返事をするように葵からもキスが戻ってくる。 「円歌、舌、出して」 「え?」  急に何を言い出すのかと思いつつも、おずおずと舌を少しだけ見せると葵に甘噛みされる。さらには舌に吸い付かれて、かと思えば押し込むように舌を絡められて。私は軽くパニックになっていた。どこでこんなこと覚えてくるの⁉ 「んんっ……葵、待って」 「……かわいい……服、シワになるから。ちょっと起きて」  背中に腕を回され抱えられたと思ったら起こされて、着ていたシャツに手をかけられる。シワになるって言っても、葵が帰ってくるまで私はこのベッドで散々昼寝をしていたから今更なんだけれど。キスをされながら、そんなことを考えてるうちにあっという間にシャツは脱がされてしまった。しかも葵はそれを綺麗に畳んで床に置く。ちょっと真面目過ぎる。葵らしい行動につい笑顔になってしまう。 「なんで笑ってんの?」 「なんか、お着替え手伝ってもらってるみたい」 「んー?じゃあ、ほら。ばんざーい」 「ねぇやめてよ」   今の今まで結構緊張していたのに。キャミソールを本当に着替えをするみたいに脱がされて面白くなってしまう。雰囲気が台無しだ。というか葵が思ったよりも余裕そうでちょっと不満だった。もっと、なんか……服なんてシワクチャになるのを気にしないくらい、求めて欲しいな、なんて。 「あ……下着、もっとかわいいのにすれば良かった……」 「何?勝負下着とか持ってんの?」  スカートも早々に脱がされて、律義に畳まれて。下着姿になったところで再びベッドに組み敷かれた。そんなつもりじゃなかったから、今日は何も気にせず地味なものを付けていた。 「そうじゃないけど……もっとかわいいの持ってるもん」 「じゃあ今度見せて」 「今度って――」  いつ着ければいいの?って聞こうとする前にキスをされて口を塞がれてしまった。葵の手は髪を撫で、頬、クビ、鎖骨……上から順番に撫でるように私の肌を滑っていく。手で撫でたあとをなぞるように、唇で触れてくる。触れられるたびに、声が漏れそうになってしまう。 「気持ち良い?……声、好きだって言ったでしょ。我慢しないで」 「だって……恥ずかしぃ」  幼馴染で家族ぐるみの付き合いで、お互いの家にも泊まりに行く仲だった。一緒にお風呂に入ったこともあるし、お互いの裸すら初めてではない。だからこそだろうか。こんな声、葵に聞かれるのが恥ずかしくてたまらない。 「かわいいね」  さっきまで泣いていた人とは思えないくらいご機嫌に私へ触れていく。声が漏れないように口を抑えていた手は葵の手に取られ、指を絡ませベッドへ抑えつけられた。頑張ってつぐもうとする唇は葵のキスによって解かされてく。キスの合間に漏れる声を聞かせないために葵の耳を塞ぎたいけれど、葵はそれを許してくれない。 「……聞かないで」 「どうして?かわいいよ……円歌は本当にかわいい……もっと声、出るように頑張るね」  そんなに褒められると余計に恥ずかしいのだけれど。私の気も知らない葵は再びキスをしながら手を段々と下半身へ伸ばしていく。太ももの内側を撫でられて体が跳ねて。浮いた背中に手が回る。私の手は葵の手から解放されて、安心を求めてすがるように葵の背中へと私も手を回す。  ブラジャーが外されて、胸へと葵の手が滑る。キスをしていた葵の唇が離れて、呼吸が荒くなっていたのは私だけではないことに気が付いた。そして目が合って、葵の目が今まで見たことがない目をしていることにも気付いた。熱い吐息が顔にかかり、すごく色っぽい目で見つめられると私の体温も上昇していく。葵も余裕がなくなってきているようだ。適当に外されたブラジャーが床に投げ出されていたことに嬉しくなっていた。 「ねぇ……ここ、触ってないのに立ってる……興奮してるの?」 「葵が、ずっといやらしく体撫でまわしてるからでしょ」 「それって、ちゃんと気持ち良かったってこと?」  初めてで不安なのだろうか。そうだとしても、子供が純粋な疑問をぶつけるように気持ち良いか聞いてくるのは恥ずかしいって、さっきからずっと態度に出しているつもりなのだけれど。 「違うの?」 「あっ!……急に触らないで……」 「どうされるのが良い?」    葵が胸を色々な角度からまさぐるように触れてくる。どうって、そんなの、上手く答えられる余裕はない。 「……あお、ぃの……好きに、して?」 「かわいい……じゃあ、そうする」  好きにしていいって言って、そうするって答えてくれたのに、真面目な葵は最初からずっと変わらず柔く優しく私の体へと触れていく。お互い出会った頃よりもずっと大人になって、こうして大人への階段を登っていって、それでも小さい頃から変わらない、ずっと大好きだった葵の性格が現れている私への触れ方に胸が高鳴っていた。でも、私はもっと―― 「葵……こっちきて?」 「ん?……ごめん、物足りない?」 「あのね……嫌だったら、嫌って言えるから……もっと、好きにしてよ」  今更気まずくなるような関係じゃないんだから。優しいところも真面目なところも大好きだけれど、もっと葵の知らない一面を見せて欲しい。もっと私に夢中になって欲しい。私への重たい感情がバレるのが怖くて隠さないで欲しい。全部受け入れてみせるから、全部曝け出して欲しい。私の葵への感情が葵と同じくらい重たいことを葵に知って欲しいんだ。  たくさんの想いを込めて、ゆっくりと葵にキスをした。 「……うん」  葵の表情が和らいで、さっきよりもずっと自由に私の体に触れていく。葵の手が縦横無尽に私の体を撫で、触れてないところがないんじゃないかってくらい、私の体の隅々の形を覚えるように触れていった。 「あっ……葵っ」 「……もう、触って平気?」 「……うん」  途中から勝手に自分から漏れ出る声を我慢できなくなって、すがるように葵の名前を呼び続けていた。そんな私のことを「かわいい」と言い続け、十分に満足した葵は、最後にまだ触れていなかった、私の中心へと手を滑らせた。 「んぅっ」 「……良かったぁ」  葵が触れた場所から湿った音が聞こえて既に熱くなっていた身体がより熱くなるくらい恥ずかしかったし、安心している様子の葵を見て愛おしさを感じていた。あられもない声を葵によって出し続けられていたというのに、私が感じているかどうか、不安に思ってたんだ。 「葵……ちゃんと、気持ち良いから……葵が触ってくれたとこ、全部気持ち良いよ」 「……そんなにちゃんと伝えられたら照れる」 「散々聞いてきたくせに」 「だって、加減とか分かんないし……円歌に満足してもらいたいし……」 「かわいい」 「別に……かわいくないよ」 「かわいいよ……もっと強引にしてくれてもいいのに……でも葵のそういう真面目なところも大好きだよ」 「んー……もう……」  葵は照れてしまって私の首元に顔を埋めて唸っていた。そんな葵の姿が可愛らしくて、頭を撫でていたら不意に私の中心へと触れていた葵の指が動き出して、私は声を抑える暇もなく、今日一番と言っていいほどの大きな声を出してしまった。 「あぁっ!!」 「めっちゃ声出たね……かわいい」 「もうっ……葵っ……ずるぃ」 「好きにしてって言ったのは円歌でしょ……痛くない?」  意地悪なことを言いつつも、私の中心のもっと奥深くまで進めようとする葵に指のスピードは傷つけないように緩やかで、すぐに気遣うことを言ってしまうところもかわいい。 「ん、大丈夫……葵、ちゅーして?ちゅーしながらがいい」 「……かわいいなぁもう」  深くキスをしている間に私の気持ち良いところを探るように葵の指は動き、奥深くまで届いた。キスをしてとせがむように頼んだくせに、どう呼吸をしていたか分からなくなってしまうくらい余裕がなくなって、酸素を求めるように葵から唇を離し、そして葵の首へと腕を回してしがみついた。 「あぁっ……んんっ」 「ねぇ円歌」 「ん……な、に?」 「声、我慢しないでって言ったけどさ……そんなに耳元で喘がないでよ……やばいって」 「あっ……ね、あおぃ……激しっ」  喘がないでというなら指を動かさなければいいのに。私が耳を塞ぎたくなるくらい、あられもなく声を上げるほどに、興奮しているのか葵の指の動きは激しくなって、私の耳元にも葵の熱い吐息がかかる。それすら私は反応してしまって余計に声は抑えられなくなっていた。 「待ってっ!……あおぃっ!!――」  葵から絶え間なく与えられる快感に身体の限界を感じて、息も絶え絶えに何とか葵に待つよう言葉をかけたけれど遅かった。私の体は私の意志と関係なく葵の腕の中で大きく跳ねるように反応し、しばらく震えたままだった。 「ごめん円歌、大丈夫?」 「あぅ……ちょっと、落ち着くまで、待って……」  葵から貰った刺激の余韻がすごくて、私の身体の奥深くに触れたままの葵の指先が少し動くことですら私の体は強く反応してしまう。まだ指を抜かないで動かないようお願いしたら、葵は指先だけでなく全身が石にでもなったかのように固まりピクリとも動かなくなってしまった。どんな時でも真面目な葵に思わず笑みがこぼれる。 「何で笑ってんの?」 「ううん、ごめん……葵のこと、やっぱり好きだなぁって思って」 「何それ……もう動かすからね」 「あっ!」  照れ隠しだろうけれど、急に指を動かされて呼応するようにまた声を上げてしまった。不服な気持ちを隠さずに葵の肩を叩いて抗議する。葵は「ごめん」と言いながらも笑みを浮かべていて悪く思っている様子はなかった。 「円歌、分かる?ここ、すっごい締め付けてんの。葵の指全然抜けないんだけど」 「だから、待ってってば……」 「ねぇ……まだ、続けてもいい?」 「え?」 「次はゆっくりするから……もっと、円歌のかわいい姿、見たい」 「え?ちょっと待ってよ……葵っ!」    私の言葉を待つこともなく、葵の指は私を離れるどころかむしろ触れる指の数が増え―― 「ねぇ、まだ、ダメっ……」 「まだ何もしてないよ?」 「葵の指っ……あるだけで、私……」 「……気持ちいいの?」   気付いたら勝手に涙がこぼれていた。どういう感情の涙なのか整理のつかない私は葵の言葉に上手く言葉で返す余裕がなくて必死に頷いた。 「ほんと、円歌はずっとかわいいよね……出会った時からずっと、かわいい」 「……あおぃ、好き」 「うん。葵も円歌のこと、大好きだよ」  愛おしそうに優しく頬を撫でられるだけでも、既に葵に十分に高められた私の体は簡単に反応してしまう。それに簡単に気付いてしまう葵は嬉しそうに微笑んでいた。そして真面目な葵は私が一度目に触れた時にお願いしたことをちゃんと覚えていて、再びキスをしながら私の奥深くへと触れていき、宣言通り、それはもどかしいくらいゆっくりと行われた。  時間をかけてゆっくりと、まるで味わうように行われたキスの続きの最後には、私の意識は遠のいていて。でも間違いじゃなければ私の記憶では、葵は最後に初めての言葉をくれて、私は幸せな気持ちで満たされた。
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