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「なあ、アキ。どれにする?」
大きさも色も違う卵を前に、恋人のアキの浴衣の袖を引く。
「ハルこそどれがいい? 人魚の卵、精霊の卵。ユニコーンの卵……」
参道に並ぶ色とりどりの風車や提灯が鮮やかに夜を灯し、響く太鼓の音と叫声で活気づいている。
今夜は夏祭りも兼ねた夜市が近所の神社で開かれていて、たこ焼きのソースの香りが食欲を刺激する。
「やべ。腹鳴った」
「聞こえた。後で食べよ。卵買ってからな」
俺らは男同士だから普通の妊娠はできない。
だから色んな種族の卵を売る卵屋の前で、どの卵を育てようかと悩んでる。
「鬼の卵なんてある。怖そうじゃね?」
「イメージだよ。俺、見たことあるもん。鬼の子。すっごく可愛くて優しい子だった」
「へえ……」
「両親がメッチャ優しい人だったから」
「そっか。育て方次第なんだな。考えてみたら見たことないし、ホントの鬼のこと知らないもんな」
街でベビーカーとすれ違うたびに視線が追いかける。
赤ちゃん欲しいよね。価値観は一致してる。
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