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けっきょく身体は何ともなくて、お腹が大きいまま俺は病院から解放された。
腹痛はストレス性胃炎と便秘によるものだった。
「退院祝いってか、仲直り祝い何がいい?」
「ごめん。アキの好きなものたくさん作る」
「違うよ。ハル。してあげるのは俺のほう」
「いいじゃん。お互い様ってことで。じゃあシャンプーして」
バブルバスに一緒に入ってお気に入りのシャンプーで泡だらけにしてもらう。
アキの指の動きが絶妙過ぎて眠くなる。
グリーンアップルの香りの泡に包まれて天国にいるみたいだ。
「何か。ハルってやっぱ天使みたいだな。ふにふにして、白いバブルヘッドで赤ちゃんみたいでさ」
「ああ、一生続いて欲しいくらい気持ちいい。アキ、ごめんな」
「あのさ。俺もごめん。酒飲んでたなんて嘘吐いて」
ドリーミングから避けてたリアルな核心へ。
既読にすることからも逃げてた。
涙するアキの顔を見て信頼は強固になったのに、万が一の不安で胸がチクチクする。
◯◯に限って。
そういう信頼がたった一%の可能性で裏切られた時の衝撃に耐えられるだろうか。
優雅な指先がもたらす至福と重い告白。
「うちの親に子供産まれるって報告したらさ。母親は認知気味の婆ちゃんと暮らしてるんだけど、もう長くないみたいで入院してて。泣き言言われた。だから親が厳しいとき見舞いに行ってた」
ホッとして、また罪悪感。
「ごめん。浮気疑ってないのに疑って。ホントに俺、どうかしてた。俺のことなんか気にせず、そっちに行ってあげて」
「うん。ハンパな隠し方したから。ハルに嘘吐くのは苦手なのに気を遣わせたくなくて、わざわざ時間遅めに帰ってきたりして。却って不安にさせてごめん」
アキの優しさが俺の頭皮から染み込んでくる。
全身デトックスされて、瞼を閉じれば天使がフワフワと飛んでいた。
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