妊む

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妊む

最寄り駅から徒歩20分。2DKの築30年のマンションで扇風機が回ってる。 風の通りは良くて、窓を開ければ漂うカレーの匂いごとかきまぜて外に抜けていく。 体感温度は予想最高気温よりマイナス五度くらい下回ってるのは陽当りの悪さもある。 なら、悪くない。 エアコン代も浮くし。 線路の近くという欠点も家賃を下げるのに貢献してる。 「体調どうだ?」 カレーをお代わりしたあと、ふうっと息を吐いてアキが俺のお腹を優しく撫でる。 「少し膨らんできたかな」 半年程度で産まれるなら数週間でもう臨月、というのは言い過ぎだけど、だいぶ体に馴染んできた。 「でもさ、毎日後悔してる。やっぱ俺の体に入れれば良かった。心配でたまんないよ」 「また言ってる。それで大喧嘩したんだから、今それ言うなよ。また喧嘩になったら流産しちゃうかも」 「わかってる。楽しみだけど不安で仕方ないんだ」 「俺はアキのこと信じてる。たった数ヶ月で海より深い俺らの絆が揺らぐなんて考えらんないもん。俺まで不安になるから不安にならないでよ」 「そうだな。ごめん。役に立たない夫の気分だよ」 「……」 また喉元まであがってきた言葉を呑んだ。 お互いを思い過ぎてキリがない。
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