妊む

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「妊夫のヌード。いいね。キャンバスにも写して色付けたいな」 「天使ってどんなだろう?」 「きっとハルみたいにホワンとして可愛いんだろうな」 「ええ! 俺? 天使はアキだろう」 「顔色悪いから良くて雪女じゃね? 天使はさ、ハルみたいにピンクの頬してて、柔らかそうな栗色の髪で──」 しばらく天使について談義した。 その間、電車が2回くらい通過して、俺達の平和なケンカを中断させた。 「ちゃんと育てられるかな」 アキに胎児ごと抱きしめられて、布団の中で不安を洩らしてしまう。 産むよりも不安なのは育てることだ。 刻々と変化を実感するのは一心同体だから。 幸せも恐怖も不安も子供と共有する。 「俺んちは両親離婚して、しかも俺は身体弱くて。でもシンママで育ったんだから大丈夫。母親とは年に二回しか連絡取ってないけど」 年に二回というのはバースデーと母の日で、アキはプレゼントを送ってる。 俺より少し長いだけのアキの人生は凄く起伏にとんでる。 お母さんに愛があるのに離れて暮らしてるのは、近付くと喧嘩して傷付けてしまうから。 だから不器用なんだと、アキはたまに自虐する。 「うん、そうだね」 家族でも、愛があっても。家族だから、愛があるから、こじれると難しい。 俺の薄い人生経験では、たった一言しか返せない。 不安を抱くことさえワガママに思えて無理やり心に鍵を掛けた。
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