疑う

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疑う

30度台から気温はようやく20度台を繰り返し、上着が必要なくらいの陽気に落ち着いたころ。 服で隠せないくらいお腹が丸くなっていた。 さすがに体調は変化して、人目を気にして外出を控えてる。 「ハル、行ってくる」 出勤を見送る俺はリモートワークでファストファッションのカスタマーサポートをしてる。 色々調べてみたけど、信頼が揺らいだ時につわりに似た症状に悩まされる、という程度の嫌な例しか見つからない。 ただ愛が萎むと連動して卵が育たず、フックが外れて未熟なまま排出されてしまうこともあるらしい。 不安の波が時々起こる。そのサイクルは妊娠が進むにつれて大きくなっていた。 「遅いな。アキ……」 最近、アキが帰ってくるのが遅いと感じるのは家にいて待つ身だからと思ってた。 でも、おかしい。 どんどん帰ってくるのが遅くなってる。 時計を気にし始めたのは数日前から。 前は夜の9時前には帰ってきてた。 今はもう10時。 スマホが鳴った。 (ごめん。会社の人に飲みに誘われて。断れないから。先に寝てて) ラインにはアキからのメッセージが届いてた。 「何だよ! 何だよ!」 いきなり目の前に赤いフィルターが掛かって視界が赤くなる。 壁掛け時計の真っ赤な文字盤を見ながら部屋中をぐるぐる回る。 今、俺は怒ってる。後付けで独白するほど、久しぶりの激情に震えてる。 アキと出会ってから幸せで怒りという感情を忘れてた。 スマホを床に叩きつける。コントロールできない。 画面にヒビが入る。それでも後悔より怒りが上回る。
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