これが運命というのなら。

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これが運命というのなら。

「じゃあ私はここで失礼するわね! 道案内してくれてありがとう。連絡するから、今度お茶でもしましょうね!」 「あ、あはは……はい、そのうちに……」  連絡先の交換をしてしまった。押し切られた、というか桜姉ちゃんとこの人を重ねてしまってからは親近感が湧いてしまった。桜姉ちゃんとは年も見た目も違うけど……雰囲気に心を持ってかれてしまった気がする。  それにしても私の押しへの弱さ……無念。 ●  予約本の受け取りをする為だろう、レジにいそいそと向かっていったおば様を見送り、本棚を眺める。たい焼きのおかげで空いていた小腹も満足したし、たまには電子書籍ではなく久しぶりに紙媒体で読んでみるのもいいかもしれない。  堅苦しい内容のモノは避けたい。死にそうになるくらいにそういった文章は読んでるから、別系統がいい。  ……あ。ここが自主出版のコーナーかな。自主出版の仕組みがわからないけど、自分の本をどうしても出したくって、って感じなのだろうか。  そういえば一時期、自主出版系詐欺が流行ったって聞いたけど、ここにあるものは本になってるんだからちゃんとしたモノなんだろ、う……?  ?!  これ……桜姉ちゃんのこと……じゃないの?  自主出版の本の中に、何でこんな題名の本が……!     『荒勢市女子大生殺人事件 ~謎と考察~』  胸が、全身が煮えたぎる。そして何故か自分の意思とは関係がないと思えるくらいに、他人行儀の震える手が指が、視界の中でゆっくりと伸びていく。  誰だ。  誰だ、この本を書いたのは。  いや、いい。  人の数だけ、考え方がある。  けれどこれが、只の興味本位で。  事実無根なデタラメを並べたモノなら。  許さない。  私は事件に(かかわ)る書類をほとんど読んでいる。事故の状況、現場の見取り図、血痕の位置、足跡、指紋の発見された場所、桜姉ちゃんの様子、横たわっていた場所、表情……あの事件に関しては、お金と時間とを使ってほとんどの事実を知った、と思っている。  けれど、二つ謎がある。  一つ、犯人は、どこかで桜姉ちゃんの部屋の鍵を手に入れている。それは事件の後に鍵が閉まっていたからだ。  合い鍵を持っていたのは大家一家と、その当時付き合っていた彼氏。でも家族それぞれに確かなアリバイがあった。  二つ、桜姉ちゃんの死亡推定時刻は朝の七時。人目に付く時間のはずなのに、怪しげな人間が目撃されていない事。  同じアパートの人間達にもアリバイがあり、そして誰も見かけていないという調書が取られていた。  もし、この本の中に誰もが見落としていた事があるのなら、私は本を書いた人と話してみたい。 ●  見つけた。  お前、だな?  考察云々じゃない。  お前が桜姉ちゃんを殺したな?  自己顕示欲が強くて退屈になったお前は、自分の所業を誇るように美辞麗句を並べ立てたんだろう? 我慢しきれなくなったんだろう?    私はこの偶然から導かれた運命に感謝する。これが運命というのなら、必然と言うのなら……全てを投げ打って、全意思と全行動を捧げよう。 「あーはっは! あーはっはっはは、はっはっはー!」  周りの視線にも構わず、高笑いと涙が止まらない。さっきのおば様が見ていようと、誰が何て言おうと猫被りは必要ない。捕まった所で何もしていない私を取り締まれる法もない。  私は、桜姉ちゃんの仇を取る為だけに生きてきた。    待ってろ。  お前の命は、明日に指先さえ届かない。
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