スマホスマホっと。

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スマホスマホっと。

 はあ、疲れた。帰りの電車も何か混んでたし。  気晴らしに駅ビルでも覗いて、買い物してくかな。  ……今日も忙しかったなあ。  全国の部署から、システムの事で毎日毎日同じような内容の質問がメールでくるけど、何で似たような質問ばっかりなんだろ。ひどい時には質問に答えた事のある部署名の別の人から同じ質問が飛んでくる。 『報連相』を知らないのかいな?  とは言っても社内サポートが私達の仕事だし、困ってるんだろうなあと思うと一件一件向き合わざるを得ない。解決した後の『ありがとう!』『助かりました~』の言葉が嬉しいからっていうのもあるし、周りのみんなも私もブツブツ言いながらいつも本気だ。  でも今日のあさイチのはひどかった。メールの件名と本文に『業務ができない』のひと言だけ。みんなで共有BOXを見た瞬間にお地蔵さんのように固まった。  いや何の業務をしようとしてて貴方は何に困ってて私達にどうしろと?(笑)  まあやり取りをしていくうちに詳しい事がわかって、業務システムのログインパスワードを勘違いしてて3回間違えてロックがかかったからどうしたらいい、という話だった。最初からそうやって書けえ!  まあ解決まで持っていけたし、心の籠ったお礼を言われたから良しとしておこう。私、結局こういうの好きなのかもね。人見知りで引っ込み思案だったからねえ。  ……桜姉ちゃん、逢いたいよ。 ● 『サチはさ、自分の笑った顔見たことある?』 『……見たくない、キモい』 『可愛いのに~。ほら、見て見て! サチが猫見つけて、「君はどっから来たのかニャ?」って言ってる動画! にっこにこだよ?』 『ふぐあっ?!』 『サチの笑顔、みんなにも見せてあげればいいのに』 ●  姉ちゃんのペースに巻き込まれては、いっつも必死で防衛線張ってたっけ。何かにつけてさりげなくアドバイスしてくるしさ。嫌だった訳じゃないけど、どう接していいかわからなかった。 ● 『消して! 消して! いやスマホ貸して!』 『やーだー。消したら怒るー』 『怒りたいのは私だあ! 肖像権! 個人情報ぅ!』 『このサチの笑顔も可愛い。宝物。みんなにこういうサチのいいところを早くいっぱい見せたげなよ』 『……ないから見せれないんだけど?』 『またそんなこと言ってー。無理はしなくていいの。まずはおはよう、からでいいんだよ? 新学期は自分を変えるチャンスなんだから』 ●  自分の勉強だってあるのに、ヒマを見ては私の家庭教師をしてくれていた桜姉ちゃんのアドバイスの数々を胸に、友達さえロクに作れなかった私は中二の新学期に勇気を出して、挨拶から始めて今に至る。  あれから友達も増えた。中学、高校の途中までは友達といっぱい遊んで楽しい事ばっかりだったなあ……全部全部、桜姉ちゃんのおかげだ。その友達も今は随分と私のもとから去ってしまったけれど。  私のやる事を理解されなくても離れていくとしても仕方のない事だと思う。周りの事など考えられる余裕もなかった。  それでも社会に出てからは、良くも悪くも目立たないように立ち回る(すべ)を少しずつ身につけた。悪意も善意も受け取らないように、ひっそりと生きていく術が必要だった。  ぐつぐつと、煮えたぎらせたまま。  時折、全身を差し込んで転げ回りながら。  私は今も手掛かりを探している。 「あの……すみません」  ん?  何だ?  後ろからの声に振り返る。  ウチのお母さんくらいの女性だ。  なんだべさ。 「『葉蔵堂書店』っていう本屋さんがこの辺りにあるって聞いたんですが、道に迷ってしまって……」 『葉蔵堂書店』? 聞いたことがないな。目の前の駅ビルは大手チェーンの書店が二つでそんな名前じゃないし。  ……スマホスマホっと。 「そうなんですね。ごめんなさい……私もその書店は知らないですけど、ちょっと調べてみましょうか」
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