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このところ、学校の七不思議が流行っている。
夏休み前、という時期柄なのか。
テレビで、それを題材にした映画が放送されたからなのか。
ともかく、流行っているのである。
たとえば、誰もいない音楽室から聞こえるピアノだとか。
動く人体模型だとか。登るたびに段数が変わる階段だとか…。
自分たちの時代は、これに校庭を走る二宮金次郎像が加わったものだけれど、今は二宮金次郎像がある学校の方が珍しいだろう。
わたしが勤める小学校でも撤去されて久しく、だからなのか、代わりに、ここいらの地域でよくきくのは「図書室の呪われた本」というものだ。
誰もいない図書室の机に、ぽつん、と本が残されている。タイトルも何もない真っ黒な表紙の本という噂もあれば、血のように真っ赤な表紙という話もある。
ともかくその本を開いたり棚に戻そうとしたりすると、呪われる、というものだ。
もう一度言うが、七不思議が流行っているのである。
そのせいで、下校時刻にわざと図書室の机に本を残していく児童があとを絶たない。
稚拙な悪戯だが、困ったものだ。
あまりに続くので、そろそろ職員会議にかけるべきかと思いながら、わたしは今日も図書室で見つけた「呪いの本」を手に取った。
しかし、棚に戻そうとして気がついた。今日の本は背表紙に分類ラベルがなかったのだ。だとすると誰かの私物だろうか。名前……はさすがに書かれていないだろうから、栞かなにか、返すにしても自分のものだと証明してもらえるものがないだろうかと、わたしはページをめくった。
それが、わたしの最期の記憶だ。
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