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「天使を見た」
ぼんやりと眺めていたSNSの画面でその一文を見た時、わたしはちょうどカップラーメンのお湯を注いだところで、3分を測るためのタイマーをセットしていた。
一人暮らしの部屋はひんやりしていて、フローリングの床が足の裏に冷たい。薄暗くて狭い台所に立ったまま、タイマーを右手に、スマホを左手に持って、わたしはなんだか釈然としない気持ちでその投稿を見つめた。投稿されたのは10分前。フォローし合っている訳でもない、全くの他人のアカウントだ。いいねの数は5つ。なんの説明もないこれだけの文章に10分間で5つもいいねがつくんだ、と不思議な気持ちになる。
念のため、投稿主のアカウントも覗きに行ってみる。何の変哲もないアカウントのフォロワーは1人だけ。これ以前の投稿は食べたものとか仕事の愚痴とか他愛もない内容ばかり。投稿主の素性が分かりそうなものは何一つない。
「天使を...見た?」
口に出して発音したら、なんだ背筋がぞわりとした。なんだろうこれは。普通に考えれば、好みの見た目の人が居たとか、かわいい動物を見た、とかそういうことなんだろう。天使という言葉から連想するのは、そういう好ましい見た目の心洗われる存在であって、決してぞわりとするものではないはずだ。
疲れてんのかな、そう呟いてわたしはスマホをテーブルに置いた。ちょうど3分が経ったところで、タイマーがピピピ、とひび割れた甲高い音を立てた。タイマーを止めて、熱湯の湯気が立ち昇るカップラーメンのフタをゆっくりとはがした。漂ってくる塩気のある香りはいつもと同じなのに、どこか現実感が薄れているように感じる。少し躊躇してから再度スマホの画面を覗き込むと、投稿は既にどこかに流れ去っていた。
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