てんし

3/16
前へ
/16ページ
次へ
 そういう投稿を見たんですよ、という話を、お昼ご飯を食べながら佐藤さんにしてみた。佐藤さんはわたしの先輩で、隣りのデスクで仕事をしている女性だ。30そこそこ位の年齢で、子供がまだ小さいので、「自分の時間なんてゼロなのよ」といつも疲れた顔をしている。 「天使を見た、っていう一文だけなんですよね」  首をひねりながらわたしは言った。 「それだけなんだけど、妙に気になっちゃって。しかも、一晩で15000件以上のいいねがつくって、異常じゃないですか?」  会社の近くの公園のベンチで、近所のコンビニで買ったおにぎりをぱくつきながらそう言っても、佐藤さんは返事をしなかった。妙に思って視線を上げると、彼女はなんだか困ったような顔をしてこちらを見ていた。佐藤さんの顔の向こうに、灰色の雲で覆われた空が見える。 「どうしました?」 「ううん、別に。そうだね、一晩で15000件は多いよね」 「ですよね!他で検索しても全然出てこないんですよ。なんの背景の説明もなし。フォロワー1人しかいない捨て垢みたいなアカウントだし」  我が意を得たりとばかりにわたしがまくし立てても、佐藤さんは困ったように首を傾げるだけだった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加