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思わず緩んだ口の端を、目の前の2人のドヤ顔にムカつきキリッと結び直す。
「はい、お疲れ様」
『志水さんはいらっしゃいますか?』
「えっと、」
何を言われているかわかっているのだろう。
いないいない、と口パクに加え大袈裟に手をブンブンと振る未歩の顔は、ニタニタとしていて気持ち悪い。
相手に聞こえないくらいの小さい溜息の後、
「今席を外してて。定時報告だけであれば俺が聞いておくけど」
そう伝えながら、さっきから耳元に聞こえてくる彼女の声に、かなり心を奪われていた。
『恐れいりますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?』
「ああ失礼、藍原といいます」
『アイハラさんですね、お疲れ様です。
では、言伝をお願いしてもよろしいでしょうか───』
◇
「んね?かーわいい声だったでしょ!?」
この、人をイラつかせる得意げな感じ。
認めるのも悔しいが、彼女の声に罪はない。
「まあ、声はな」
渋々認めれば、
「気になるなら顔写真確認する?人事のサイトから見れるよ」
波瑠の言葉に未歩も賛同する。
「そうだね、私たちもまだ見てないんだけど。
玲が気になるなら一緒に見よっか?」
「別にわざわざ見る必要はない」
″気になるなら″を2回も強調されて、どれどれと見るわけないだろう。
「全く素直じゃないんだからー」
未歩の言葉を聞き流しながら、ゴールデンウィーク明けか...とデスクの卓上カレンダーを無意識に確認している自分がいた。
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