恋を始める瞬間

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「そうだよ、ありすのこと引き摺ってずっと童貞だった。けどそれ打ち破ったの、璃珠なんだよ」 自虐的な笑いが込み上げる。 そんなわけ、ない。 だって瀬那さんみたいにあんな綺麗で性格も良いひと、わたしがかなうわけない。 「玲、璃珠に気持ち伝えなかったの?」 「好きだ、とは言われましたけど」 それはベッドの上限定の話だと聞き流した。 「長年のありすへの想いが吹っ飛ぶくらい、璃珠にはまったってことじゃないの? それってかなり凄いことだと思うけど」 「そう、なんですか?」 じゃあわたし、舞い上がっていいの? 見初められたって、はしゃいでいいの? 「……わたし、一夜限りだと思って、寝てる藍原さん置いて出て来ちゃったんです」 「えーー!? それきっと今頃、すごく落ち込んでると思うな」 志水さんが楽しげに笑う。 「ともかくさ、一度ちゃんと玲と話してごらん?誠実なヤツだから、軽い気持ちで璃珠に手は出していないはずだよ」 「ほんと、ですか?」 「だからそれを本人に聞いてごらんって」 そんなの、聞く勇気ない。 ごめんね?って、あの笑顔で申し訳なさそうに謝られたら、二度と立ち直れない。 だって、今までなかっただけで、これがワンナイトのスタートじゃないと言い切れる? 「……とりあえず今は仕事、します」 わたしはパソコンに向き直って、今日の仕事に集中することにした。 「玲は今頃仕事どころじゃないかもねー」 志水さんの言葉に、期待を持たないよう自分に言い聞かせて。
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