恋を始める瞬間

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昼食は、志水さんと社食に行った。 「璃珠、それっぽっち?」 トレイに載せたのは、普通は定食にプラスするであろう冷奴と納豆、そしてパックの野菜ジュース。 「具合悪いの?まさか玲のこと気にして?」 志水さんの推測に、笑って首を振った。 「お店なんかに行けば普通に食べたりしますけど、普段はこんなもんです」 「可愛いーー、女子だね」 「納豆チョイスで女子って言えますかね」 「だからそこも含めてだよ。全部が全部可愛くないところが可愛いの」  「それわたし素直に喜んでいいんですかね」 志水さんがアハハと笑う。 こうやって話していると、いろんなことの気がだいぶ紛れる。 「っ、」 先に気付いたのは、わたしだった。 「あれ、……あ、」 すぐに、志水さんも気付いた。 「わたし、先に行きますね」 すぐにトレイを持って席を立つ。 「璃珠、待ちなって」 志水さんの声は、聞こえないふりをした。 そのままトレイを食器返却口へ返し、スタスタとその場を去る。 社食に入ってきたのは、今日一日社外のはずだった井浦さんと藍原さん、そして瀬那さんの3人だった。 わたしを「好きだよ、愛してる」と言ったそのひとは、瀬那さんと楽しそうに笑いながら、話をしていた。 わたしとのあの一夜なんて、なかったように。
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