恋を始める瞬間

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「っ、スーツ濡れちゃうので、」 藍原さんの胸をぐいっと押して離れようとしたけれど、すぐにまた抱き寄せられた。 「ありすのことずっと好きだったのは、ほんと」 藍原さんの言葉に、更にぶわっと涙が溢れた。 「でも今は違うぞ。わかってるだろ?」 わたしの顔を覗きこんで、照れたように笑う。 「璃珠に会って、全部吹っ飛んだ。 長年引き摺ってたのが嘘みたいに。 なんていうか、呪縛から解かれたというか。 今は璃珠のことで頭がいっぱいだよ」 「っ、藍原、さん……」 「名前、戻してくれないの?」 「っ、、玲、さん、」 だけど、さっき瀬那さんと凄く嬉しそうに話してた。 「……なに、話してたんですか?瀬那さんと。 玲さん、かなりデレデレしてました」 「ははっ、そんなにデレてた?」 うう、、こんなにわかりやすくヤキモチ妬いてるのに、そこもデレるの? 「璃珠のこと、報告してたんだ。 他に好きなコ出来たから、お前のことは吹っ切れたよ、って」 「っえ、?」 嘘、じゃあデレてたのって…… 「ありすにも言われた。そんなデレっとしてる俺は初めて見た、って」 「もうっ、玲さぁんっ、」 今度は違う意味で涙が溢れた。 「璃珠は泣き虫だな、可愛いとこまた見つけた」 スーツのポケットからハンカチを出して、わたしの涙を拭いてくれる。 そのハンカチからも、玲さんのアンバー系の香りがふわっと漂った。
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