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恋に落ちられる瞬間
◇
わたしとすれ違いで東京本社に出張している高倉仁さんは我が社の御曹司。
けれど実際の後継者は、東京本社にいる双子のお兄様。
お兄様は高倉仁さんの彼女にずっと片想いをしていて、諦めきれずにずっと引き摺っているらしい。
その寂しさを埋めて差し上げようと、一夜のお相手に名乗りを上げる女性が後を絶たないんだとか。
「へえ、そうなんですね」
本日の研修後、定時間際のおしゃべりタイム。
そんな噂話を話半分に聞きながら、東京本社での教育係•志水さんへ定時報告の為の内線を掛けた。
『ハイ、こちら秘書室です』
おお、なかなかのイケボ。
じゃなくて。
初めて聞く声だな。
だいたい志水さんが直接出るか、たまたま席外してる時でも井浦さんが出るのに。
「……お疲れ様です。秘書課配属予定の新人、七瀬です」
向こうにも誰だコイツと思われないよう、そう名乗った。
『はい、お疲れ様』
んん、この言い方、同じ秘書課のヒトだろうか?
「志水さんはいらっしゃいますか?」
『えっと、』
イケボなその人はきっとイケメンなんだと思う。
イケメンて、こういう少しの間もドキドキさせるから。
『今席を外してて。定時報告だけであれば俺が聞いておくけど』
定時報告のことを知っていると言う事は、井浦さんと同じような男性秘書なのかな?
「恐れいりますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
『ああ失礼、アイハラといいます』
相原さんていうんだ。
「相原さんですね、お疲れ様です。
では、言伝をお願いしてもよろしいでしょうか───」
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