恋を始める瞬間

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◇ だれかの話し声で、ぼんやりと目が覚めた。 瞼が重い。 まだちょっと気持ち悪い。 「ああ、それじゃあ」 ちょうど通話が終わった。 すぐに、わたしが目覚めたことに気づき、近づいてくる。 「璃珠、大丈夫か?」 じわりと、涙が滲んだ。 気を失ったところを玲さんがここまで連れて来てくれたんだよね。 鍵はわかりやすくバックの内ポケットにキーケースを入れているから、すぐ見つけてくれたんだろう。 それで、ソファに寝かせてくれた。 その優しさをぜんぶ、わたしは受け止めてもいいのかな。 「水、飲むか?」 顔の近くに腰を下ろして、わたしの頬を撫でてくれる。 少なくとも目の前の心配そうなその顔は、嘘ではないと確信した。 「納豆、臭かったですか?」 「え、なに?」 いきなり言われて、きょとんとしてる。 「お昼休みのキス。わたし、納豆食べたあとで」 ああ……と、少し照れたように自分の唇を親指でなぞる玲さん。 「どうだったかな。緊張してたから、覚えていない」 涙がぽろぽろと溢れ落ちる。 「璃珠?どこか痛い?気持ち悪いか?」 余計に心配して、わたしのことを気遣ってくれる。 どうしよう、どうしよう。 「────どうしよう。 玲さんのことが、すごく好きです」 耐え切れず、両手で顔を覆い咽び泣いた。
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