恋を始める瞬間

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「璃珠?」 駄々をこねた子供をあやすように、優しく頭を撫でてくる。 けれどわたしが一向に泣き止まないし顔も覆ったままだから、玲さんも困り果てているようだ。 しばらくして玲さんの小さい溜息が聞こえて、ほんとわたし面倒くさい女だなってイヤになる。 普段は違うのに。 こんなふうになっちゃうの、玲さんの前だけなのに。 「なんで″どうしよう″なの?」 だって、どうしようだよ。 亜希の言う通りなら、これは報われない恋なわけで。 優しくしてもらったぶん、痛みが伴うわけで。 「俺も璃珠のこと好きで、これって両想いなんじゃないの?」 玲さんの言葉に、また涙が掌から零れ落ちた。 「っ、こわい、です。 その言葉を信じて、裏切られて傷つくのが、すごくこわい」 ついに、言ってしまった。 だってもう辛い。 吐き出してしまいたい。 舞い上がっては落とされて、浮かれては傷ついて。 そんなのもう、終わりにしたいよ。 掌でごしごしと目を擦り、身体を起こした。 そして目の前の玲さんの顔を見つめる。 私の顔は涙でぐしゃぐしゃだけど、そんなのもうきっと玲さんには関係ない。 「今夜はご迷惑お掛けしてすみませんでした。 もう大丈夫なので、お帰りください」 微笑もうとしたけれど、口角が上手く上がらない。 ひくひく、とさせていると、玲さんが可笑しそうに笑った。 「璃珠はほんとに困ったコだね」 そしてぐい、と抱き寄せられた。 「こんなに好きなのに、どうしてわかってくれないのかな」 色気を含んだ視線と共に形の良い唇が、柔らかく押し当てられた。
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