恋に落ちられる瞬間

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「よう、やっとこっちに来たな」 「あれ、亜希じゃん。久しぶり」 亜希は、営業部に配属された同期。 秘書課はこまごまと覚えることが多い為研修ばっかりだったけれど、実戦第一の営業部は、入社式の翌日からもうバリバリと働いているらしい。 「なに、アンタも定時上がりなの?」 「ゴールデンウィーク終わったとはいえまだ木曜だからな。本格始動は来週からだろ」 「そっか、じゃあおつかれさまー」 「て、オイ待てよ。久々なんだからちょっと付き合えよ。色々と相談したいこともあってさ」 「は、明日も歓迎会じゃない。 今日は帰ってゆっくり休みたいし、ひとの相談のってる余裕今のわたしにはないから。 他あたってもらえる?」 踵を返し立ち去ろうとしたところ、肩をぐい、と掴まれた。 「そこ、兄貴の店で一杯だけでいいから。 な、俺奢るし!」 半ば無理矢理連れて来られた形で、亜希のお兄さんのお店「禅」にやって来た。 諦めて従ったのは、ここが立ち飲み屋だから。 そんなに長居はしないだろうと思ったから。 「あれ、璃珠ちゃん?こっち帰って来たんだー」 「郁さん、こんにちは。お久しぶりです」 なんて気軽に挨拶しちゃってるけど、郁さんと会うのはこれで2回目。 こっちでの入社式のあと、気の合った同期数人でここに立ち寄った時以来。 一度会っただけなのに名前と顔を覚えてるって凄いよね。毎日色んな人接客してるのにさ。 そして、誰とでもフレンドリーに仲良くなれちゃう。 そういうとこ、羨ましい。 見習いたくても見習えることじゃないから。
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