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崩れ落ちた僕にガタイのいい男が近寄っていく。僕をいとも簡単に持ち上げ車に押し込んだ。自分がそうやって押し込まれているのを見ていてなんとも言えない気持ちになった。
「ではあなたも」
突然、係の女性が意味のわからない言葉を発し、手を差し出してきた。たった今契約が切れた僕を車に運び込んだばかりだ。全く意味がわからなかった。僕は一歩後ずさった。
「なんで僕もなんだよ。今僕を車に乗せたじゃないか」
僕は悲痛なほど叫び声をあげた。そうでもしないと本当に連れていかれそうな気がした。
ドサッと何かが下に落ちる音が傍でした。母が項垂れ座り込んでいた。母が崩れ落ちた音だったようだ。
「どうしたのお母さん」
もしかしたら、お母さんもロボット。さっきのガタイのいい男の操作で、連れ込まれた僕と同じように力が抜けてしまったのか。そんな考えが脳裏を過ぎる。
「ごめんね、裕太。ごめんね」
母は涙声でそう言った。いつのまにか手に持っていた僕の写真を握りしめてただただ泣いていた。
「では行きましょう」
再び係の女性は僕に手を伸ばした。もう一歩後ずさる。怪訝そうな表情を浮かべた係の女性は、ガタイのいい男に視線を送る。ガタイのいい男は再びスマホのようなものを操作した。
そのすぐあと、僕の全身から力が抜けていく。さっき車に押し込まれた僕が経験したあの感覚を再び味わった。操り人形の糸が切れたように地面に崩れ落ちた。意識は微かにある。視覚と聴覚はまだ機能していた。ガタイのいい男が近づいてくる。僕のことを簡単に担ぎあげ車に押し込んだが、押し込まれた先にもう一人僕がいた。自分で動かない50kgほどの塊は邪魔でしかない、そう思えた。一度は車内に入れられたもののその塊が邪魔をして僕の上半身は雪崩るように外に投げ出され、頭を地面にうちつけた。ガタイのいい男はそれをそのままにして係の女性の所に戻って行った。
遠くから係の女性の声が微かに聞こえる。僕の目に三人が逆さに映る。
「では本日、裕太さんが契約した裕太さんの三ヶ月の契約期間と、お母様が契約した裕太さんの六ヶ月の契約期間の満了となります。記憶のデータは保存しておりますので、また必要がありましたらご利用ください」
母は座り込んだまま力なく頷いた。
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