お好みロボ

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「ママも揃ったし、久しぶりの家族旅行だ」 意気込んでみんなで出かけ、旅行先で事故に合い二人が帰らぬ人となってしまった。一度に二人を失った喪失感は計り知れないものだった。 そんなとき『お好みロボ』のチラシが自宅の居間に置いてあるのを思い出した。ずっと気持ちを抑えていたが話を聞くだけと思い家電量販店に足を運んだ。係の女性から話を聞けば聞くほど二人を取り戻したくなってしまった。しかし金銭面的に二人は難しかった。 契約は六ヶ月。所定の手続きを行い裕太だけを取り戻した。 裕太にお好みロボが欲しいと言われた時は驚いた。どのようなロボットをねだるのかと思えば、自分の分身を選択した。そのとき思った。一時的とはいえ裕太が復活しても日中は学校に行っていた。学校に行くなと言えば怪しまれてしまう。限られた時間の中の大半が傍にいられてない。もう一人の裕太が自室にこもってゲームをしていたとしたら常に傍にいられる。お世話ができる。母親でいられる。少しの契約のお金ならなんとかなる。 お昼ご飯を用意し、おやつを用意し、何かにつけて理由を作れば、部屋にいる裕太に会えるのだ。前からいる裕太でも、あとからの裕太でもどちらでもよかった。裕太は裕太なのだ。記憶も経験もどちらも同じ裕太だ。 お好みロボットを作るとき、記憶を入れて貰ったが、唯一戻さなかった記憶がある。それは事故で父親と一緒に死んだということだ。父親がいないことも疑問に思わないようにしてあった。 裕太と夫の写真が飾ってある仏壇に手を合わせた。裕太二人を失った喪失感は、裕太と夫の二人を同時に失ったとき以上だった。心の傷口を自ら広げてしまった。
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