育種

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 花はもちろん一重。効率よく受粉させるには、これが当たり前である。  花はけっして大きくないものの、房状になって、たくさん咲き、ダマスクローズ由来のかぐわしい香りが漂ってくる。  テリハノイバラ由来の葉は、つやつやとしている。  樹形はシュラブ樹形だが、枝が結構長く、つるバラに近い。  枝が長く伸びるバラは、花が繰り返し咲きにくく、返り咲きしても少ししか咲かない場合が多い。つるバラに至っては、四季咲き性がなく、一季咲きのものが多いといわれている。  だが、このバラは枝が長くなるにもかかわらず、冬の時期を除くと、何度も繰り返し咲き、しかも、花付きがいい。 「ダメ元で品評会にでも出してみるか。まずは苗木を作るところからだな」  せっかく作り上げたのだから、品評会に出して、少しでも世に広めたい。そう考えたのだ。  台木としてよく使われるノイバラならたくさんある。彼はこれを台木として苗木を作る作業に取り掛かる。 「……名前を付けなくては」  彼は、え~っと、う~んっと、と言いながら、バラに相応しい名前を考える。 「そうだ!」  何か思いついたようだ。 「マルティプライヴ。これにしよう!」  マルティプライヴ。「増殖する」という意味のマルティプライという言葉と、「生きる」という意味のリヴという言葉を合わせた造語である。  これが本音なのだが、建前としては、かつて一世を風靡(ふうび)したテクノポップユニットの曲が好きなので、それにあやかって付けたということにする。  彼は苗木を丁寧に育てた後、品評会に出した。
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