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 「何事も初心を忘れてはいけない」 助手席に座った長谷部優(はせべゆう)はそう話した。彼はペラペラと、俺たちの仕事に関する持論を述べている。  信号が青になったので再び車を発進させると同時に、彼の話もいったん無視することにした。  場所はK市A町。俺はそこに向かって車を走らせる。  依頼があったのは昨日の夜だった。  「何ヶ月も前から親父と連絡が取れないんです。警察に連絡しても、なかなか進展が無くて・・・」  依頼主は弱々しく言った。  俺は仕事柄、誰かからの依頼が無い限りは、仕事が無いのだが、今日は後部座席に座っている、職の先輩でもある、後藤俊(ごとうしゅん)とともに車を走らせている。  「警察も頼りになんないもんだよなぁ。一昔前までは探偵なんて不倫調査くらいしかしてなかったぜ?」 後藤はその大きな身体に比例した大きな声で言った。 「そうですよね。行方不明の人を探すことなんて元々は警察がしなきゃいけない仕事ですから」 俺も適当に相づちを打つ。  先程まで元気に喋っていた長谷部は(俺が話を無視したからだろう)急に静かになった。  「それにしてもさ、長い間俺はこの職業をやってきたけど、人が本になっちまうって言うのはどういうことなんだろうかね。それだけはよくわからねぇんだ。まあ、少しは分かってきたけどよ。なんでなんだろうなぁ、林?」  後藤は俺に尋ねた。 「そんなの俺が知るわけ無いですよ。科学者でもないんだし。あ、ここですかね。着きましたよ、後藤さん」  俺達は目的地(依頼主の家)の近くの駐車場を止めて、車を降りた。 「ここだろ、多分」  後藤さんがドアフォンをならした。  しばらくしてから、返事があり、俺たちは軽くあいさつをして、玄関に入った。 「汚い部屋ですが」 と気弱そうに僕らを部屋に案内した依頼主は思ったよりも若く、まだ20代であることは間違いなかった。部屋の中はある程度は物がきれいまとめられ、格段にきれいな部屋でも無かったが、汚くも無かった。    その後、俺たちは少し会話をしたが、途中で少し沈黙が生まれた。そこで、後藤さんが 「では、早速ですが本題に入らせていただきます」 と、会話の流れを変え、いなくなった父親のことを聞き出した。  ちなみに、依頼者の名前は佐藤涼太(さとうりょうた)という。 「まず、親父さんの名前を教えてください」 「佐藤和夫(さとう かずお)です」 「ありがとうございます。いつ頃から連絡が取れなくなったんですか?なるべく、具体的にお願いします」  会話はほとんど後藤さんが進め、俺はその横で聞き役に徹していた。
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