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 ある程度質問をしてから、俺達は家を出て、行方不明になった佐藤父を探すことにした。  先程の質問から佐藤父がどこに行ったのかは見当が付く。  しかし、こういう場合のほとんどは、行方不明者が一冊の本になって発見されるパターンである。 というのも、この世の中で、行方不明になってその後見つからないという人も少なからず存在する。そのような人々は本になって発見されることが多い。  俺たちも、長谷部の助言等も参考にしながら、やっと人が本になってしまう原理が分かってきた。 特殊な成分の含まれた、弾丸で人を撃つと、撃たれた人物はこの世を去ると同時に一冊の本になってしまうのだ。  そして、その本にはその人物の名前と没日が表紙に書かれ、中にはその人物の経験が記される。  俺たちはその本をいくつも探し出し、被害者の身内が驚きの表情を見せた後に涙を流すところを何度も見てきた。  そういう仕事なのだ。  そして、この仕事のやり方の大抵は、長谷部から学んだ。  思えば、あれも何年も前のことだったが・・・。    時は遡り、10年前。  俺はいつものように、長谷部と調査に出かけた。あいつは、いつも通りペラペラとこの仕事に対する持論を展開していた。  そして、長谷部と俺が手分けしてその場を捜索することになった。  長谷部は、 「じゃあ、俺こっち探すから。林はあっちをよろしく」 と言ってその場を去った。  思えばあれが長谷部の最後の言葉だったのだ。  しかし、そんなことは知らない俺は寒さに震えながら、その場の捜索も開始しようとした。その時だった。  近くでとてつもない音が聞こえ、とっさにそこに向かうと覆面の男が一冊の本を手に持っていた。 俺はその男に近くにあった物を投げつけ無理矢理本を奪った。男は本を奪われたのと同時に素早く逃げ出し、俺はその後を追ったが、追いつくことはできなかった。  そして、その本の表紙にはこう書かれていた。 「長谷部優 2013年2月6日没」 急に辺りの気温が下がった気がした。  涙を流すよりも先に額から変な汗が出てきて、心臓の鼓動が普段の何倍も大きく聞こえた。  その後、俺は長谷部の身内に会って、話をした。俺が熱望すると、長谷川一家はこの一冊を俺に預けることを許可してくれた。   この本は、今後の俺に大いに役に立つ、運命の一冊となった。そして、あの覆面の男に復讐するために今もこの仕事を続けている。  
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