17人が本棚に入れています
本棚に追加
これって運命の出会いなのでしょうか?
AIは、今や彩良の仕事にも関係しています。
「僕の名刺をお渡ししてもよろしいですか」
「どうか、私の名刺も」
「え、青森県警?」
「えっ、エブリスタAI開発研究所?」
「青森県警察中央本部」の三枝彩良刑事。そして「エブリスタAI開発研究所」の所長、田辺誠一郎。ふたりの名刺が並びました。
AI、すなわち人工知能ですね。コンピュータが目(視覚)や学習能力を持ち、様々なことを自ら判別(判断)出来るようになったのが現在のAI。
流通業界では、商品の一日の売れ行きを予測し、適切な仕入れを判断するのにAIが活用されています。
病院ではAIが病気を特定し、治療や薬を提案しています。
ビルの床清掃や巡回警備、そしてレストランにまで、AIロボットが現れています。
警察ではどうでしょうか? 実はAIを取り入れた捜査の実現が積極的に検討されているんですよ。すでにAIを活用して指名手配容疑者の現在の姿を予測したり、犯罪の発生予測を元にした効率的なパトロールが導入されたりしています。
とはいえAIの警察捜査への導入には慎重論も根強く、まず各都道府県の警察の自主的な判断で研究が進められています。青森県警ではAIが捜査データを分析し、捜査の方向性や容疑者を推理することが可能かどうかを研究していました、
そしてその提携先というのが「エブリスタAI開発研究所」だったのです。
「これも何かの縁です。県警のAIプロジェクトに参加しませんか?」
田辺はにこやかに話しかけてきます。思わず彩良は、
「ご推薦頂けるなら喜んで」
と答えていました。
「では今度、ゆっくりご相談しましょう。実は今日、県警本部に伺うので、そこであなたのことを紹介しておきます」
「田辺さんも県警本部に行かれるのですか?」
「AIの研究が狙われているようなのです。我々の通信網、すなわちネットワークに不正に侵入しようとする動きが何回もありました。万一、警察関係の通信網に侵入されたら大変です。今から松山本部長にご相談に伺います」
松山洋介本部長は警視庁から異動してきました。二、三年勤めたら警視庁で警視監か警視長に栄転すると噂されています。
彩良と田辺のふたりは、駅を出ると、肩を並べて一緒に青森県警本部に向かいました。彩良にとってはワクワクする通勤時間でした。
夕方、彩良は松山本部長に呼ばれました。
「田辺さんの推薦もあり、君にAIプロジェクトに行ってもらうつもりだ。研究所を狙った動きもある。会議で正式決定したら田辺所長の護衛に入ってくれたまえ」
朝のちょっとしたアクシデントがAI研究の第一人者と知り合うきっかけとなりました。
大変迷惑な人間でしたが、「マルクスを読む男」に感謝するべきかもしれませんね。
最初のコメントを投稿しよう!