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彩良の十二歳年下の婚約者
エブリスタAI開発研究所の田辺所長との思いがけない出会い。
心がウキウキ弾む彩良でしたが、自宅のマンションに近づくにつれ、だんだんと眉と目がつりあがっていきました。
ドアを開けると日下くんがニコニコ顔で駆け寄ってきました。彩良はますますけわしい表情になっていました。
「夕飯もお風呂も準備出来てます」
「君にそんなこと頼んでません。私、早く帰れと頼んだけど……」
寝室でTシャツとショートパンツに着替えてから、再び日下くんの前に現れます。
「いつまでここにいるつもり?」
キッチンのテーブルには、古本屋で買ったこと確定のボロボロの本が置かれています。
『姿なき怪盗 甲賀三郎』のタイトルが、ジーッと目をこらすと、やっと見えてきます。
「こんな汚い本置かないで。ここ、君の家じゃないんだから」
日下くんはあわてて本を手にとり、自分のバッグにしまいました。彩良は冷たく、その様子を見つめていました。
「君はミステリー作家志望だそうだけど、大昔の小説しか読まない子にはムリじゃないかと思う。さあ、そろそろ下呂に帰ってくれないかな」
彩良ったら、ストレートに用件を突き付けたのです。
「だけど彩良姉さん」
日下くんが困った顔を向けてきます。少しも力強さが感じられない弱々しい姿に、彩良はますますイライラが募ってきました。十二歳の年の差だけではありません。自分に全く釣り合う男性ではないと確信が湧いてきました。
「君の姉さんなんかじゃない。私たちの祖父が親友で、大きくなったら孫同士結婚させようと話し合ったのは事実でも、法的には何の拘束力もない。それに高校一年の君とは年齢が離れすぎてるから……」
「だけど僕、ずっと彩良姉さんのことフィアンセだと……」
「君の小さい頃とはもう違う。話はこれで終わり。お金を出すから早く下呂に帰りなさい」
彩良は交通費の入った封筒を、テーブルの上に置きました。
「絶対イヤです」
彩良は何も言いませんでした。寝室から脱いだばかりのストッキングを持ってきて、日下くんを後ろ手に縛り上げ、余った部分で日下くんの身体をグルグル巻きにしました。それからガーターベルトで両足首を縛り上げます。あっという間でした。
そのまま、日下くんを、寝室のベッドに引きずって行ったのです。
「君の顔なんか見たくないから、私が家にいるときはずっとここにいてね」
ベッドの上に投げ出すと、日下くんがしくしく泣いています。カッとなった彩良は、バッグの中の予備のショーツを日下くんの口に押し込みました。
「今日ね、最先端の科学技術のプロフェッショナルと知り合ったの。ボロボロの本を熱心に読んでいる君とは正反対の人間だと思わない?」
彩良は今朝の出来事を詳しく日下くんに説明しました。それから残酷な表情で、こう宣告したのです。
「君に早く帰って欲しいから、特別に報告しておいた。明日、気をつけて帰ってね」
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