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「このままじゃ惑星ローンが返済できない」
お父さんのこの言葉から家族会議が始まった。
おじいちゃんのお葬式のあと、ぼくたちの小さな惑星に残った大きなローンがはっきりと姿を現した。
お母さんもたくさんのお店屋さんがある隣の惑星で働くことになったが、そこで二人はぼくを見た。
「一人でお留守番できるね」
「うん。大丈夫だよ」
お父さんはぼくの言葉に表情をやわらげた。
そうして十才になったばかりのぼくは一人暮らしをすることになった。
毎日の日課は海や山に行ってきれいな石を拾うこと。勉強をすすめながら息抜きに石を集める。
ぼくのズボンはおじいちゃんの作業着をお父さんが縫ってくれて大きなポケットがついている特別なズボンだ。
惑星を一周するのに二日。毎日、見回るように歩き回ってポケットに集めた宝物を部屋に飾る。
今日もとてもきれいな模様の石を海で見つけた。
石の中に海があるように複雑な模様があって、光にすかすとキラキラといろんな表情があった。
磨けば磨くほど形を変えるみたいだ。
初めの朝日にあたる窓辺においた。目が覚めた時に朝日が石の中を通ってきれいな光の模様が見れるかもしれない。
たくさんのキラキラした石が部屋の中にいっぱいに満たされている。
ぼく自身がこの惑星の一部になったような気持ちになって、眠る前も寂しくはなかった。
パキリ。
何かが壊れる小さな音に、ぼくははっきりと目を覚ました。
この惑星にはぼくしかいない。宇宙船が帰ってきたら寝ていても音で気づくはずだ。
なんの音だろう。音は部屋の中からした気がする。
人の気配はない、と思う。ぼくは部屋の電気をつけた。
棚の石たちにはなんの変化もない。眠る前と同じだ。
床に何かの破片が落ちていた。窓が割れたのだろうか。近くに寄ってみると、昼間に拾った石が砕けていた。
「あ…」
割れた石のあった場所に、植物のような骨のような不思議なものが生えていた。
窓辺にキラキラと光り輝くそれにぼくはすっかり眠気が吹き飛んでいた。
義務教育用の惑星間ネットワークに石から生まれたものの写真を取り込んで検索する。
すぐに情報がヒットした。
地球の海に生息しているサンゴ……に近しいものらしい。ここは海でもないし、調べてみてもサンゴは石からは生まれない。
それからぼくは別の石も窓辺に置いてみた。
たくさんの石をいろんな環境で観察したら、ほとんどのものが地球の動物や昔の建物や植物の形へ変化していった。
そういえば、とぼくは思う。
おじいちゃんはこの小さな惑星のことを「とてもにぎやかであたたかい惑星だ」と言っていた。
石の声を聞いていると昔がなつかしくなる、と。
不思議と形を変えた石たちを眺めていると、ぼくの部屋に閉じ込めておくのがかわいそうに感じるようになった。
部屋は寂しくなってしまうけれど、この惑星はにぎやかになるだろう。
おじいちゃんの生きていた時みたいに。お父さんとお母さんと一緒に過ごしていた時みたいに。
石が姿を変えた動物や植物の情報を見ながら、海の生き物は海へ、山の生き物は山へおいていく。
この作業は石を拾うのと同じように僕の日課になっていった。
そして石を置きながら毎日観察していると、不思議と成長しているようだった。ただの石ころだと思っていたものが何かの卵で何もない惑星で育っている。
不思議で面白い。
通信教育ではそんなことは習わなかった。図鑑にも載っていない。
お父さんとお母さんがお仕事で長い休みをもらえるときに教えてあげよう。もっと宝箱の中身みたいにキラキラしたものでこの惑星で育てよう。
そう考えるたびに部屋は寂しくなったけれど、とてもにぎやかであたたかい気持ちなった。
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