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三学期になり、水沢が教室にいない。寂しくて胸が引き裂かれるような痛みに、唇を噛む。友だちは声をかけてくれるけれど、仲村が望むのは水沢だ。もう会いたくて、視界がゆらりと揺らめいた。
「……?」
スマートフォンが震え、もしかして、と確認するとやはり水沢からのメッセージだった。
『会いたい』
涙をこらえて、奥歯をぎゅっと噛みしめる。
『俺も会いたい』
返信したらすぐにまたスマートフォンが短く震えた。
『今だけ我慢する』
そう、今だけだ、と心を奮い立たせる。ふたりの未来は繋がっているのだから、悲観することはない。唇に力を込めて、無理やり笑顔を作った。泣いたら水沢に心配をかけてしまう。会えなくて顔を見られなくても、彼が仲村の涙を気にかけないはずがない。
きっと水沢は、新しい学校でももてるだろう。また王子様扱いされていたりして。想像したら楽しくなって、口もとが自然に緩んだ。
早くアルバイトを探そう。頑張って水沢に会いにいこう。
一年と少しの月日は長くて短かった。水沢も自分もアルバイトをして、互いに会いにいった。たくさん頑張ったあとに水沢に会えることが、疲れも吹き飛ぶくらいの、なによりも嬉しいご褒美だった。
卒業証書を持って帰宅する。友だちと別れを惜しんでいたら、帰ったときにはお昼が近くなっていた。階段をあがって部屋に入ろうとすると同時に、ポケットのスマートフォンが震える。通知を確認して口もとが緩む。あちこちに段ボールが積んである室内で、メッセージアプリを開いた。
『卒業おめでとう』
いつからか涙は自然と消え、せつなさよりも楽しみが膨らんだ。今のこの時間もすべて未来につながっているのだと思ったら、寂しいことなんてないのだと思えた。
水沢の学校は一昨日が卒業式だった。それでも仲村からももう一度送る。
『そっちも卒業おめでとう』
またスマートフォンが震える。
『約束守るよ』
水沢と仲村を支えてくれた約束はいつでも心を強くして、道しるべのように今日まで導いてくれた。
『待ってる』
返信すると、間を置かずにまたメッセージが届く。
『待たなくていい』
「え?」
どういう意味だろう、と思ったらインターホンが鳴った。今、親がいないので急いで階下におり、モニターを確認して玄関に走った。胸が震えて、久々に視界が涙で滲んだ。でも、これは悲しい涙ではない。
勢いのままドアを開けると、優しい笑顔を浮かべる、仲村の特別な人が立っていた。
「晟。おまたせ」
「柊弥……」
(終)
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