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「おはよう、仲村」
「お、はよう」
月曜日の朝、はじめて水沢から声をかけてくれて驚き、仲村は少し声がうわずった。
「風邪ひいてないか心配だったんだけど、大丈夫か?」
「そんなにやわじゃないよ」
笑うとほっとしたように水沢は目もとを和らげた。
「昨日メッセージで聞こうかと思ったんだけど、なんか緊張して送れなかったんだ」
「緊張?」
「そう」
そんなに心配してくれたのか、と心が温かくなった。そういえばこうやって会話をしていても、もう淡々としていない。きちんと感情を込めて言葉をくれる。
「優しいんだね」
「別に優しくなんかない」
水沢が照れた様子で頬を赤くするので、伝染して仲村まで頬が熱を持った。なんだか変だ、と思いながら、水沢の赤い顔を見あげた。
昼休みになり、今日も一緒にパンを食べていたら、ふとあることが頭に浮かんだ。
「水沢って、名前『柊弥』だよね?」
「ああ」
「ヒイラギが入ってるってことは冬生まれ?」
「そう。十二月二十五日生まれ」
言われた日付を脳内で繰り返す。クリスマスだから、あと一週間と少しだ。
「お祝いしようよ」
「別にいい」
水沢は本当にしなくていい、という顔を見せる。でも仲村はせっかくだからお祝いをしたい。お祝いにはプレゼントが必須だ。
「よくないよ。プレゼント買わないと」
「は?」
「え? だって誕生日でしょ?」
誕生日にプレゼントはおかしくないと思うのだが、水沢は唖然とした顔で仲村を見る。なんとも表現できない不思議な表情を浮かべたまま、じいっと見つめられる。
「あ。いや……迷惑ならやめとく」
勝手に盛りあがりすぎていたが、水沢はそういうのが好きではないのかもしれない。しゅんと肩を落として反省すると、水沢が慌てたように首を横に振って見せる。
「嫌じゃない。迷惑とかじゃなくて」
「うん?」
「なんか……いいのかなって」
「じゃあ、俺の誕生日にはお返しちょうだい」
交換なら、それほど気にしなくていいだろう。我ながらいいアイディアだ、とまた気持ちが浮上した。
「仲村の誕生日、いつ?」
「二月」
自らの提案に満足する仲村に、水沢は表情を曇らせた。やはりプレゼント交換はやめておいたほうがいいだろうか。自分ばかりが乗り気でも、水沢がその気にならないのに押し切るのは申し訳ない。
そこで気がついた。二月は――。
「そっか。水沢、転校しちゃうんだっけ」
楽しくてすっかり忘れていた。もうあと少しで、目の前にいる彼はこの教室から、仲村の前から、いなくなってしまう。胸がぎゅっと重く痛み、痺れるようにお腹が絞られる。
ふたりで無言になって、パンを黙々と食べる。
水沢はもうすぐ転校する。
わかっていて、それをきっかけとして話しかけたことさえ忘れていた。一緒にいるのが楽しいから、忘れたかったのかもしれない。
「……転校するけど」
「え?」
「絶対お返しするから。約束する」
真剣な表情を向けられ、頬に熱が集まる。とくんと心臓が甘く鳴り、そんな自分を不思議に思った。
「じゃ、じゃあ、頑張ってプレゼント探すよ」
頬が熱くてどきどきするのはなんだろう。水沢の言動が心臓を跳ねさせる。
テスト期間なので学校は午前中で終わる。勉強は帰ってからやることにして、さっそく水沢へのプレゼント探しをすることにした。
「なにがいいだろう」
学校帰りに少し賑やかな駅で電車を降りて、商業ビルや駅ビルを見てまわる。喜んでもらいたくて、選ぶ側の仲村も胸が弾む。
よく考えてみると、プレゼントを贈るような友だちははじめてかもしれない。小学生の頃は、誕生日プレゼントは学校で禁止されていたし、中学にあがってから今まで、そこまで仲良くした友だちもいない。一緒に遊びにいったのも水沢がはじめてだ。学校で話したりグループチャットでやり取りしたりする友だちはいるけれど、休みの日に遊ぶこともなかった。
特別な友だち。
そわそわと落ちつかない気分でプレゼント探しをする。なにを贈ったら喜んでくれるだろうか。
いろいろ見てみるけれど、どうもぴんとこない。これ、というなにかを贈りたいのだけれど、その「これ」がわからないし、しっくりこない。
悩みながら次は雑貨屋に入る。出入り口の近くに防寒具コーナーがあり、手袋が並ぶ前で足が止まった。
手を握られたとき、水沢の手が冷たかった。
決めた。
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