氷結の都と滅びかけの王国

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 世界は衰退(すいたい)していくところだった。かつて世界はデジタル至上主義で各国がしのぎを削っていたのものだが、大抵なものがそうであるようにメリットとデメリットが存在しいつしか向上する利便性とは真逆に人の心は貧しくなっていった。  デジタルやオンライン、AIはとても便利で生活を効率的にし、悩ましい会議や問題解決も委ねることができた。煩わしいことはみんなAIがやってくれる。世界を楽園へと導くのはAIだとまで言われていた。この世は楽園とまで(うた)われていた時代。  一方で一部の人間が警鐘(けいしょう)を鳴らしてはいた。考える力がなくなっていく。早急な結論ばかりを求めて長期に研究することがまるで無駄なことのように扱われるようになったことで研究者が姿を消した。望む反応を返すAIの方が心地良いと人間同士の交流が希薄になった。このままでは恐ろしいことが起きる。ほとんどの人がバカなことをと嘲笑(あざわら)った。  しかし、大停電が起きた。大多数の人々が電子マネーを使えなくなり、非常電源で再始動した機械は当然のように電子マネーの支払いを要求する。備蓄を解放しようにも電子ロックが物理的に壊れて開かない。消防も警察も呼べない。他の連絡手段も思い浮かばない。心を寄せていたAIも再起動でデータを失うものが多数。新規になったAIは愛しい相手ではない。答えを教えてくれる端末はブラックアウトしたまま。警鐘は正しかった。  電力は復旧したが以前のようには戻らなかった。人々の心に大きな不安が圧し掛かる。次に備えようと世界中の人が一斉に情報を求め結果メモリが不足してフリーズ。人々はデジタル以外の方法を知らない。少しでも使えるならデジタルに頼り切ろうとする。完全復旧しようにも人々の勢いは止まることを知らず、代わりの策もないなら我先にとしか意識はなく。精神を病み人口の4割が命を落とし、他の6割も健康とは言えないまま日々ギリギリ生きる。そんな生活が30年続いている。  キロクナ王国も例外ではなく、ひとつ違うことといえば王の諦めが悪かったことだろうか。優先順位を考え、民を救うべく思考する。それが第23代国王、カミユリ・キロクナである。御年35の黒髪の美丈夫であった。
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