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氷結の都と復元された本
リサーチャーパラダイスには王はおらず、決まったリーダーもいないが、色々な分野で強い人が時と場合に応じて指揮をとるという。オンライン環境が全くないわけではなく主に物資調達の手段にしているらしい。
見聞きするものすべてに驚いている2人をテグツナは微笑ましく見ながら案内を続ける。まだ完全な自給自足の環境は整わないが、いずれ可能にするつもりで農園、果樹園、家畜飼育にも力を入れながら新たなアイディアの研究開発、古い文化や技術の復活にも力を入れていると聞いたカミユリは深いため息をついた。
「王様?」
「カミユリでいい」
「では、カミユリ様」
「…………まぁ、いい。なんだ?」
「我々は処罰されますか?」
「なぜそうなる!?」
真剣に問いかけられたカミユリは思わず大声をあげた。シノギは冷静でカミユリとテグツナの間に入って確認するように口を開く。
「国から逃げたこと、逃げた先で様々な研究成果を上げていることが反逆に当たらないか……そういうことか?」
テグツナは頷く。カミユリは考えたこともないと困惑する。
「処罰する相手に助けてくれと言うか?」
「それもそうですね」
「まぁ、カミユリはそういう王だ。信じろというのは難しいかもしれないが害意は一切ない。危うく遭難しかかったのを助けてくれた。むしろ、お前達は恩人だ」
ホッと表情を緩めたテグツナは2人の旅路の話を求めた。国外れに行くにつれて逞しい人々が多かったように思うという言葉にテグツナは笑った。
「国外れは時折電波が狂いますから、古い手段を活用している人も多いんですよ。それこそ手紙とか、メモ書きとか、旧式の電池ランプとか……すべてをデジタルに委ねる人達よりも工夫力があると思いますよ」
「そういえば……紙飛行機が飛んでいたな」
「ああ、やたら落ちないやつ」
カミユリ達の脳裏に窓から窓へ飛んで行く紙飛行機の風景が浮かぶ。驚くことにほぼ真上にも飛んでいた。
「ああ、役に立っているようですね。安心しました」
無言の催促にテグツナは集落の奥を指差した。
「紙職人がいるんですよ。紙研究に没頭している娘が。まだ10代なんですけど熱心で。その最中にぶつかるまで飛ばした方向に飛び続ける妙な紙ができてデータが欲しいと頼まれてお試しで物資に混ぜておいたんです。冗談で伝言紙飛行機になるかもしれないって言ったんですけど本当になったんですねー」
なんなんだこの集落。顔を見合わせた2人は目だけでそんな感想を伝え合う。しかし、紙にはずいぶんと長く触れていない気がした。もっと詳しく聞こうとした時、驚愕に満ちた声がした。
「カミユリ様!?」
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