See you next week

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 次の週、ベンチでハル子が来るのを待ちながら、茂夫は文庫本を読んでいた。おとといの放課後に、商店街の大型書店にいって買ってきたものだ。おもしろければ、ハル子にも貸してあげようと考えていた。  空には、鈍色の雲が浮かんでいる。もしかしたら今日は、はやくにさよならをすることになるかもしれない。茂夫はすこし残念な気持ちで、文庫本の活字を追っていた。 「おまえが沢野か?」  顔をあげると、三人組の男たちがすぐ目のまえにいた。見たことのない男たちだった。全員で茂夫を睨みながら、ゆっくり近づいてくる。 「沢野茂夫はおまえかときいているんだ」  真ん中のいちばん背の高い男が、ドスのきいた低い声で茂夫に言った。茂夫は一瞬こしをあげたが、逃げる隙もなく、残りのふたりに道をふさがれた。 「こいつに違いないよ。ほら」と、ひとりが茂夫の文庫本を指さした。  三人は顔を見合わせると、真ん中の男がいきなり、茂夫の胸ぐらを掴みあげた。茂夫はベンチから持ちあがり、手に持っていた文庫本は、投げ捨てられるように地面に落っこちた。目のまえにある男の顔には、茂夫に対する明確な敵意があらわれていた。  男の右手が、茂夫の顔の高さまであがった。次の瞬間、左頬に強い衝撃を受け、茂夫はベンチに叩きつけられた。口のなかに、生あたたかい鉄の味がひろがる。  痛みにもだえる茂夫を見下しながら、あわれな虫でも見るように男は言った。 「治子には近づくな」  そう言い残すと、三人組はもと来た道を戻っていった。その道は、いつもハル子が手を振りながら、帰っていく道だった。  三人組がいなくなったあと、殴られた頬をおさえながら、茂夫は考えた。あの男の目に、見おぼえがあったのだ。あまり考えたくなかったが、その確信はつよかった。  茂夫は、あの男に掴まれてヨレヨレになった襟をなおすと、さっき地面に落とした文庫本を拾いあげ、くっついた砂利をはたき、カバンにしまった。   この日は当然、ハル子が来ることはなかった。しばらくベンチで待とうか考えたが、やがて、雨が降ってきた。  広場のクスノキのしたに移動した茂夫は、九月のささるような雨が降るなかで、薄墨のような空を見あげていた。
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