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「それから、どうしたの」
ぼくは、目のまえで歯につまようじを刺している祖父にきいた。
「どうしようもしない。それがほんとに最後だった」
祖父はみかんの最後のひとふさを口にいれた。
「それからしばらくして、彼女が亡くなったときかされた。あの公園で、彼女のお兄さんにな。それと、すこし謝られたよ」
理由もわからないし、事故なのか病気なのかも教えてくれなかったらしい。祖父はお盆に湯呑をのせると、台所に運んでいった。
ぼくは、座卓のうえの古い文庫本を手にとってパラパラとめくってみた。
すると、最後のページのとこに一枚の紙が二つ折りにされてはさまっていた。
これは……。
祖父の話だと、これは祖父のものではなく、その女の人がくれたものだ。祖父が、これを書いたのだろうか。でも、それにしては……。
ぼくはその紙を抜いて、ひろげた。
古くなって文字もだいぶ消えかかってはいるが、そこにはこう書かれていた。
しげちゃん だいすき
祖父は台所で、ふたりで使ったお皿をスポンジでこすっている。きっと、祖父はこの紙の存在には気づいていない。でも、わざわざ教える必要もないよね。
だって、いまさら気づいたって、もうどうにもならないもん。
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