第一章 1日目 帰郷

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3  兄貴は、賢かった。  兄貴は、医者になった。  ボクは、どうだっただろう。  ボクは、営業になった。しかし、一年もしないで辞めた。  ヒトとの関わりに疲れたから。  きっと、あの暴力的な父親がボクが仕事を辞めたと知ったら、殴りつけるだけでは許さないだろう。幼少のころからボクや妹を叩いていたんだ。  母さんが、ズルズルとその関係を続けることなく、離婚という即断をしてくれたことが本当にありがたかった。  母さんはボクの失職に関して「それでもいいよ」と、ポジティブにとらえてくれたらしくそう言った。けれど、それには理由がある。  きっとボクが兄貴ではないからだ。  期待されていない。だからこそ、得られている『穏やかな反応』なのだろう。これが兄貴だったらきっと母さんは悲観し、そして言うんだ。 「あなたは悪くないわ。きっと、仕事か――……そう、周りの環境と職場の人とあわなかったのよ。だから、諦めいで次があるわ。応援してる。転職先、決めてるの?」  なんて。
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