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「ううん、謝らないで。すごく楽しかったよ。連れて来てくれてありがとう」
「海辺に行くのもいいなって考えてたんだけどな。それこそ寒いと思って。横浜でも良かったよな。中華街とか……」
ひとりごとのように最後にポツリとつぶやいた彼の言葉が耳に残った。
横浜……その地名を聞いただけで、おとといの徳永さんとの会話がよみがえってきてしまう。
『横浜だけはダメ。内緒にしてるけど実は俺も向こうに彼女がいるから、君とのデートを誰かに見られたらまずいしね』
『俺も君も恋人がいる身だし、そこはお互い様だから気にしなくてもいいんじゃない?』
『罪悪感? 俺にはないかな』
あれから二日経って、頭の中が落ち着いたからわかる。
チャラついた部分を表に出している高木さんとは違い、徳永さんには裏表があり、コソコソ隠れて遊ぼうとしているところに狡猾さを感じる。
見た目はあんなに爽やかなのに、そこだけが本当に残念な人だ。
「今日の町宮は、やっぱりどことなく元気がないな」
車窓を眺めながらたわいもない会話をしている中でも、芹沢くんは些細な変化に気づいてくれる。
「そう?」
「顔は笑ってはいるけど、心ここにあらずな感じがする」
「え、そんなことはないよ」
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