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予想外のことが起きた。
茶髪ピアス、つまり美延リョウが席替えにより隣の席になったのだ。しかも、恐ろしいことに彼は不動の学年一位と有名な神的存在だったと発覚する。
普通科だと科目数や科目種的に、進学クラスや特進クラスとはかなり異なるので、それで学年一位には無理があると思う。
どうやって一位に?塾?独学か?そもそもテスト問題も違うはずなのに、特進クラスと同じ試験を受けていたのか?と疑問をもちつつも本人に尋ねることはできない。
隣の席にいても、話しかけづらい雰囲気があったし、話しかけられることもなかった。基本的にクラスメイトとは必要最低限しか話していないようだった。
あまり教室にいないし、いても寝ているかマンガを読んでいた。昼休憩以外のスマホは禁止だったが、なぜかマンガはいつでも許されているという摩訶不思議な学校でもあった。
そんなある日、卒業するまで話すこともないと思っていた美延が話しかけてきたのだ。物理のテスト返しの時間だった。
「相沢陽南汰〜、今回もよかったぞ」
先生がそんなことを言いながらテストを返してきた後のことだ。
「相沢陽南汰?お前、相沢陽南汰なの?」
「?そうだけど……」
まさかの茶髪ピアスと幼なじみパターンか?と思い、一応保育園まで遡ってみたが、美延リョウなどという知り合いはいない。何度思い返してみても、そんな知り合いはいなかった。
「……それが、何か?」
「お前この前の物理も一位だったよな?」
「え?ああ、そうだけど」
確かに一位だった。物理だけはたまに一位を取る。他の教科はまず無理だったので、物理のおかげで総合順位が上がっているとも言えた。
「くそ~、やっぱりお前か。物理だけはほとんど一位が取れなくて、不思議に思ってたんだよな」
物理だけって……化け物か、コイツは。こういうヤツが東大に行くのだろう。何で今まで普通科にいたのか不思議でしょうがないが、何か事情があるのかもしれない。
「逆に俺は、物理しか一位は取れないから」
「いや、それでもオレはマジで悔しい」
「悔しいって言ったって、今まで普通科だったのに学年一位だろ?化け物だと思うけど」
陽南汰は素直な感想をぶつける。
「まあ、塾行ってるしな」
「学校では?」
「学校はただ来てるって感じ。だから普通科でよかったんだけど、さすがに受験は特進クラスにしてくれって言われて」
「まあ、そりゃあそうだろうな。特進クラスから偏差値高い大学に進学してもらいたいのに、普通科から行かれても学校はイヤだと思うよ」
美延はため息をついた。
「そ、だから仕方なく。言いくるめられてって感じ」
もう一度、大きなため息をつく美延を見て陽南汰は笑った。すると、美延は意外そうな顔をする。
「へぇー、お前も笑うんだな」
「何で?」
「クールそうだから」
「ああ、よく言われるね。冷たい、って言って振られたこともある」
今まで二度ほどそれで振られたことがあった。冷たいし、何を考えているのかわからない、と。
かっかと大口を開けて美延が笑った。
「別に冷たいとは言ってない。クールだって言ったの。クールだと思ったから。言っておくけど冷たいとクールは別物だからな?陽南汰っていう陽気な温かそうな名前とギャップがあって驚いたし。まさかお前が物理一位の相沢陽南汰、だとは思わなかったって話」
「それはそれで何か失礼だな」
陽南汰がくすくすと笑う。
「あ、ごめん。失礼だった?褒めてるんだぜ?冷たいではなくて、クールだからな!」
何が違うんだか陽南汰にはよくわからなかったが、怖そうに見えた茶髪ピアスが明るくて楽しいヤツだとわかりほっとした。
少なくとも、自分のように冷たくもないしクールでもない。とっても温かいヤツに見えた。
それからは二人の距離は一気に縮み、毎日は話すようになった。話すといっても、美延が一方的にしゃべりかけ、陽南汰がくすっと笑いながらうなづいたり、相槌を打ったりする程度なので、特進クラスの名物になってしまった。
クラスでほとんど誰とも話すことがなかった美延が急に話すようになり、その相手がクールな陽南汰。しかも、ほとんど無表情で暮らしていたような陽南汰を笑わせることができる美延は強者だ、とクラス中の格好のネタになっていた。
「何か最近オレら注目されてない?」
「そうかな」
「うん」
「とするなら、美延のせいだろうな。茶髪ピアスでとっつきにくそうなのに、実は気さくな男だってわかったからだろ。俺のおかげだからな?」
恩を着せるように陽南汰は言った。
「ふーん、そんなもんかね。ってか、いい加減リョウって呼んでよ。オレも陽南汰って呼びたいから」
「何で?」
別に名前で呼び合うことに抵抗はなかったが、何となく尋ねてしまう。
「陽南汰って名前が好きだから。温かそう」
「それ、前も言ってたな。どうせ俺は名前と違って冷たい男だよ」
わざとそう言って、口元をほんの少し尖らせ拗ねてみせた。
「何、根にもってんの?」
「別に」
全く根になんかもっていなかったが、口をさらにすぼめてみせる。
「はは、怒るなって。冷たい、じゃなくてクールなんだって」
だからそれはどういう違いだ、と思いながら眉を少し上げて返事した。
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