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理由は忘れたが、リョウの家のリビングで少しの間待たされたことがあった。玄関の開く音が聞こえ、リョウが帰ってきたかと思ったら女子高生だったので、たぶん妹だろうと理解する。
「お邪魔しています」
陽南汰は軽く会釈した。
「こんにちは。兄のお友達ですか」
「……です」
ソファーに腰掛けたままリョウの妹を見上げると、予想どおりの美人だった。背はすらっと高く、艷やかな黒髪のロング。ただ、リョウより少し愛嬌があって、怖さは微塵も感じなかった。
「陽南汰さん?」
「です。よくわかったね」
「陽南汰さんの話しか聞いたことないので」
「あー、クラスでは俺としか話さないからな。ミナリちゃんだったよね?」
陽南汰は微かに笑みを浮かべた。その顔を見て、妹が目を丸くする。
「そうです。私の話、聞いたことありますか?」
「うん、ちょこっとだけ」
「何て言ってました?」
「あまり詳しくは聞いてないよ。二人暮らしってことぐらい」
ミナリは、あぁ……と視線を宙に泳がせた。
「理由は聞いてますか?」
「ううん」
「ざっくり言うと、数年前に母が病死して、それからずっと二人暮らしなんです。父は会社の近くにマンションを借りていて、そこで一人で住んでるんですよね」
そのざっくりした説明からだと、親子の仲が良くないイメージを抱いたが、ミナリの口調は比較的明るかった。
陽南汰の心中を察したのか、さらなる説明が付け加えられた。
「仲が悪いから離れているわけではありません。仲良くしたいから離れているんです。不自然に思うかもしれませんが、これが私たちにとって最善だろうと話し合った結果なんです」
嘘をついているようにも見えなかったので、陽南汰は特に言葉を挟まずうなづいた。
「兄は……やっぱりクラスで浮いてるんですかね?」
「さすがに茶髪ピアスだからね。でも嫌われてるとかじゃないよ。ただ、浮いてるだけ」
ミナリはうふふ、と笑った。
「ただ浮いてるだけって、いいことですか?」
「悪くはない。疎まれてるわけじゃないし、一目置かれているとも言うから。化け物みたいに頭がいいからさ」
「昔からです。私は凡人なので、マジ怪物だなって昔から思ってます」
ミナリは目を細めて笑う。笑うと柔らかな雰囲気になるのはリョウと一緒だったが、不思議とリョウの笑顔の方がぐっと胸にくる。その違いがイマイチ何かは理解できなかったが、明らかに異なる感情だった。
そうこう思っているうちにリョウが帰宅し、陽南汰の感情はうやむやになっていった。
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