たぶん、あれは天使だと思う

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  *  ある日突然、何の連絡もなくリョウが学校に来ない日があった。どうしたのか、体調が悪いのか、とメッセージで尋ねると、そうではないと返事が返ってきた。  事情は言えないが心配しないでほしい、とのことだった。  しかし彼は次の日も、またその次の日も学校を休んだ。リョウが学校に執着しないことはわかっていたので、さすがに心配になった陽南汰は、学校の配布物を届けるのを名目に家を訪ねることにした。  訪ねる前にリョウに連絡はしたが、いたって普通で (ありがとう。ずっと家にいるからいつでも来ていいよ) という返事があったのみだった。  マンションのエントランスでリョウの部屋を呼び出すと、鍵を開けてくれた。部屋の鍵は開いてるからそのまま入っていいということだった。  物騒だなあ、と思いつつも玄関の扉を開けると、リョウの靴と見慣れない女性物の靴が並んで置いてあった。ミナリの靴だと思い、さして気にも止めなかったが、数秒後に後悔することとなる。  カチャリ。  ちょうど玄関に上がったときに、リョウの部屋のドアが開いた。陽南汰に気がついたリョウが出てきてくれたのだと思ったが、出てきたのは見知らぬ女の子だった。  その瞬間、時が止まる。頭を誰かに殴られたような衝撃が走った。まさか女の子が出てくるとは、少しも思っていなかったのだ。  ミナリかもしれないと微かな希望を抱くが、穴が開くほど見つめても、ミナリとは似ても似つかない女の子だった。  心臓が止まるかと思った。知らない女の子がリョウの部屋から出てきたのだ。十中八九リョウの彼女だろうが、今までそんな話は一度も聞いたことがない。  彼女がいるなんて知らなかった。確かにこちらから聞いたことはなかったし、リョウならいてもおかしくはない。  それでも、彼女と過ごしたいがために学校を休んだと思うと、体がずしんと重くなり、胸が締めつけられ急に息苦しくなった。空気の吸い方を忘れてしまった人間以外の動物になったように、肺に酸素が運ばれなくなっただけではなく、四肢の動きを忘れてしまった。  こういうときはクールでよかったと思う。顔には出にくい性分なのが救いとなった。  彼女は制服を着ていたので、おそらく高校生。平日に毎日、女子高校生との密会。夜は塾があるし忙しいよな、息抜きとかしたいよな、と陽南汰はどうにかして自分を納得させようとした。 「こんにちは」  笑顔こそなかったが、彼女は丁寧に挨拶をしてきたので、陽南汰も 「……こんにちは」 と挨拶を返したが、体が震えて目を合わせられなかった。全身が拒否反応を示している。  そのとき、部屋からリョウが飛び出してきた。 「あれ、もう着いた?部屋で待ってて。ちょっとそこまで送ってくるから」  そう言って、穏やかな目で彼女に視線を下ろす。  そんな目を女の子には向けるんだ……そう思うとズキズキと胸が痛んだ。
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