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メリーウェザーは熱っぽく語った。
「マリアンヌさんのご実家の潤沢な資金の源の理由がお分かりですか? マリアンヌさんのお爺様は大のやり手で、政府の基幹的な取引に顔を出すようになり、あらゆるところで資金の下支えを担い、やがて爵位まで手に入れなさった。お国では面と向かって『海賊の子孫め』と罵る人はいなくなりましたか? でも、お忘れなきよう。我が国の船が何隻強奪され沈められたか! 海賊の孫娘を王太子妃にするなんて国民感情が許しませんよ。いいですか? みんな、真面目に働いて税金を納めているのですよ。海賊の孫娘に納める税金なんてありません!」
「か、海賊というのは本当か」
アシェッド王太子は虚ろな顔でマリアンヌを見た。
「違います! それに、もし仮に祖父が政府公認の強引な取引に携わっていたとはいえ、私は手を染めていません」
マリアンヌは「自分は関係ない」とばかりに言い切った。
しかしアシェッド王太子は首を横に振った。
「とはいえ、王太子妃が海賊の孫娘では、国民感情が確かに許さない。まさか王宮が無法者の親族を娶るわけには」
マリアンヌは手で顔を覆い、メリーウェザーを指差した。
「嘘、嘘です! そんな女を信じなさるの?」
メリーウェザーは指差されてびっくりした。
「ええ!? 指差し!? あ、あの、昔の貿易文書の署名とか、船の登記とか、わが国の被害調書とか、ご覧になりたかったらお見せしますよ」
その言葉を合図に、急にすっとリカルドがどこからともなく姿を現した。手には文書の束を持っている。
リカルドは無言で文書をアシェッド王太子の方に突き出す。
「おまえは、あのときの……」
アシェッド王太子はリカルドの顔に見覚えがあった。
そして、その説得力のある佇まいに項垂れた。
マリアンヌはまだあきらめきれず、みっともなく叫んでいる。
「そんな機密文書、どこから手に入れたというの?」
「(海竜族の隠密スキルは)いろいろございまして……」
メリーウェザーは、確かにヒトにはこんな短期間では入手困難かも、と思い苦笑した。
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