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メリーウェザーは慌ててかぶりを振る。
「い、いや、ちょっと待って下さい! 何も海に突き落とさなくてもいいじゃありませんか! 普通に婚約破棄してもらえばいいですよ。殺されるくらいなら喜んで婚約破棄に応じますとも!」
メリーウェザーは、婚約してから5年間、アシェッド王太子が自分のことを好きではないことはよく知っていた。だからいつか婚約破棄されるんじゃないかとは薄々思っていた。真実の愛? 別に、今更そんなことで取り乱したりはしない。
しかし、海に沈めると言い出したことには驚いた!
よくあるロマンス小説のように、普通に婚約破棄してもらえれば万事解決のはずだから。
しかしアシェッド王太子の方は少しも態度を軟化させなかった。
「そんなしおらしいことを口では言うが、いざ婚約破棄を突きつければ女は皆大騒ぎをするだろう? そして婚約破棄が不当であると主張して、俺はマリアンヌと共に『ざまぁ』されるんだ。そんなのは真っ平ごめんだからな」
メリーウェザーは遠い目をした。
ああ、マリアンヌさんっておっしゃるの。そんなご令嬢存じ上げませんねえ。平民さんかしら。王宮への出入りが制限されている下級貴族のご令嬢かしら。でも、もはや興味もないわ。
それよりも、『ざまぁ』されたくないから殺すとか、なんかロマンス小説の読み過ぎじゃございませんこと? まさかアシェッド王太子様がロマンス小説を大真面目に読んでいるとは思えないので、これはマリアンヌさんの入れ知恵でしょうか。
が、ここは、死にたくないから否定一択!
メリーウェザーは大きく首を横に振った。
「しませんよ、しませんよ、『ざまぁ』なんか! 殺されるくらいなら文句ひとつ言いませんとも。なんならおとなしく追放されて差し上げます。二度と姿をお見せしませんから!」
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