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しかし、合図を受けた従者たちが一斉にメリーウェザーに飛び掛かり、メリーウェザーを縄でがんじがらめにすると縄の先に大きな岩を括りつけた。男5人でやっと運べるほどの大きさの岩だ。
メリーウェザーはぞっとした。
これで海に落とされたら、いくら泳ぎが上手くたって無駄だ。
メリーウェザーが青い顔をしている横で、アシェッド王太子は薄ら笑いを浮かべている。
(私が死ぬのを喜んで見ている!?)
メリーウェザーはぎょっとした。
ダメだ、もはやこいつに言葉は通じまい……。
やがて従者たちが掛け声を上げながら、縄の先の岩を苦労して崖から海に落とした。
岩に引っ張られてするすると縄も落ちていく。
縄の先には、メリーウェザー。
メリーウェザーも引きずられるようにして崖から落ちそうになった。メリーウェザーは崖から落ちてなるものかと這いつくばり、動かせる手先だけでも必死でそこらへんの草やら土やらを掴もうとしたけれど、岩は重くて結局ずるずるとメリーウェザーは崖の向こうへと引きずられてしまうのだった。
指を立て爪を立てたが敵わない。メリーウェザーの爪も指の皮も剥け血でぬめったような感触があったが、痛みを感じるどころではなかった。
そして、次の瞬間、地面が見えなくなり、急速な落下感と共に、メリーウェザーは海の中にドボンと落ちた。そのまま水の下へと体が沈んでいく。
水が冷たい。服が急に重くなる。深く深く沈んでいく。
顔を上げた先の海面が遠くなる。ゆらゆらと揺れる海面の向こうは明るいのに、沈む体と共に周囲は暗くなるような気がした。
終わりだ。死ぬんだ。
ごぼっと口から泡が出た。海水が喉に流れ込む。苦しい。閉塞感。
肺に水が入り、とてつもない痛みが体を襲い、反射的に咽た反動でまたたくさんの水が気道を塞いだ。
メリーウェザーの脳も体もパニックを起こし、かといって海の中には救いはない。
苦しい、苦しい……。早く死ねないものか。
アシェッド王太子。愛されていないのは知っていたけど、私を殺すほどだとは思わなかった。
別に殺す必要ないけどな。マリアンヌさんって人との真実の愛? 殺されるくらいなら両手を上げて応援するけどな。
惨めすぎるでしょ、私。なんで海に沈まなきゃいけないの。
アシェッド王太子。仮にも5年間婚約者やってたんだから、それなりに楽しく話もしたし、一緒にダンスもしたでしょう? 食事も観劇も一緒にしたし、冗談だって多少は言いあったじゃない。平気な顔して身近だった人間を殺せるって、どれほどの非情? サイコパスか何かかな?
メリーウェザーは意識が薄らいでいくのを感じた。
やっと苦しみが終わる……。
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