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その途端、海竜の男が驚いた顔をしたので、メリーウェザーは、
「あ、やっぱ引いてます? 婚約者だった人ってちょっと偉い人なんで、そういうこと平気でできちゃうみたいなんですよね」
と慌てて言葉を付けたした。
海竜の男はポカンとしている。
「婚約者が口封じに殺す? 全く理解ができないが……」
「ですよね~。あなたみたいな常識的な人が婚約者だったらよかったな~」
メリーウェザーは自虐的に泣き笑いしてみせた。
海竜の男は気の毒そうな顔をした。
「ずいぶんとひどい目にあったようだね。さぞつらかっただろう。しばらく私たちの国にいるか? 面倒はみてやる。帰る気になったら帰ればいい」
「え、いいんですか? ありがとうございます!」
メリーウェザーは思わず声をあげた。
この国にいさせてもらえるなんてとっても助かる! ちょっと今の状況でもとの国には帰りたくない!
「私はメリーウェザーと言います」
メリーウェザーは名乗った。
「私はリカルドだ。海竜の一族の長をしている」
海竜の男も名乗った。
メリーウェザーは喉の奥で「リカルド殿下」と呟いた。
リカルドは優しく言った。
「君は肺の水もまだ完全には出し切れていない。窒息状態が続いていたし、体は相当傷んでいる。その上、心までつらいとなると、不憫でならない。ゆっくり休みなさい。遠慮はいらないよ」
「優しいんですね。ありがとうございます」
メリーウェザーはリカルドの言葉に心からほっとした。
人間不信気味だった心が少し解きほぐされるような気がした。
リカルドの方は成り行きで拾ったとはいえ、メリーウェザーが気の毒でならなかった。
「傷を癒してやれればいいんだが」
そしてリカルドは、メリーウェザーがリカルドの邸で静養を続けられるよう、色々な手筈を整えてくれたのだった。
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