1.婚約者に海に突き落とされました

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1.婚約者に海に突き落とされました

「アシェッド王太子様。ここはどこですか……」  豪華な馬車の中から引っ張られるようにして外に降ろされたメリーウェザー・クーデンベルグ公爵令嬢は、自分の手を引くアシェッド王太子にそっと聞いた。  メリーウェザーは婚約者のアシェッド王太子に誘われて遠出をしてきたのだ。しかし行先は教えてもらっていなかった。  メリーウェザーの言葉が決して(はず)んだ調子でなかったのには理由がある。  メリーウェザーは一抹(いちまつ)の不安を感じていたからだ。  こんな風に出かけることは、婚約をしてからこの5年ただの一度もなかった。なぜ急に私を連れ出したのだろう?という思いがメリーウェザーにはあった。  案の定、アシェッド王太子も気乗りしない調子で答えた。 「海だ」 (海なことぐらい、見りゃわかりますけれども)  メリーウェザーは心の中で突っ込む。  そこは見晴らしの良い岬のようだった。広大な海は確かによく見える。  ただ、その岬はやや殺風景で寂しい感じがした。それどころか、岬の一部は崩れ、どうやら崖になっているようだった。不穏な空気を漂わせている。 (決してロマンティックな雰囲気ではない……) とメリーウェザーは思った。仮にも王太子が婚約者である公爵令嬢をデートで連れてくるような場所ではない。  メリーウェザーが緊張気味に辺りを見回していると、不意にアシェッド王太子がメリーウェザーの背後に立った。 「おまえを連れ出したのは大事な用件があるからだ。悪いけど、おまえには海に沈んでもらおうと思ってね」 「はい?」  メリーウェザーはあまりのセリフに呆気(あっけ)にとられて、思わず聞き返した。  アシェッド王太子はメリーウェザーのポカンとした顔を冷たく見返して、 「俺は真実の愛を見つけてしまったんだ。婚約者のおまえが邪魔だ。だから死んでもらう」 と言い放った。
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