1. 抜擢

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 チームの危機はみんなの頑張りで無事乗り越え、みんなも普通の顔に戻ったけど、自分だけ変身できなかった事実は、優の心に深い傷跡を残した。  こんなことでは、自分が輝く明日など永遠に来るわけない。  そんな風に自身の未来を疑っている中で、優は再び取締役の松島慧に呼び出された。慧の部屋の前に来て、何か失敗したかなとビクビクしながらドアを開けると、そこには既に二人の男女が来ていた。  ドアが開いた気配で振り向いた二人の顔を見て、慧は思わず、「うわわわ」と大声を上げてしまった。 「どうしたの?」  場違いな大声を訝しんで、慧が理由を尋ねた。 「いえ、呼ばれたのは私一人だと思ったので、他の人がいて驚いてしまいました」 「おかしな人ね」  幸い慧は何か重大な用件を伝えようとしているのか、優が苦し紛れについた嘘を追求することなく流してくれた。 「早くお入りなさい」  優は慧に促されて、二人の横に並んだ。  横目で二人の顔を盗み見て、自分が見間違えたのではないと確信する。  男の方は雨宮(あまみや)慎一(しんいち)。優とは同期入社で、以前絶望を感じたプロジェクトでゲームディレクターを務めた男だ。そこで見せた高いパフォーマンスは、伝説のように社内で語り継がれ、つい最近もスタープランナー三枝美南の新作をスマッシュヒットさせたばかりだ。
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