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あの人の顔を見ると気持ちがざわざわする。
姿を見かけるだけでこう。その、今まで感じたことのない気分に、私はいつも戸惑っていた。
誰かに相談してみようかと思いもしたけれど、どうしてか、この感覚を持っていることを人に知られたくはなかった。
もしかして、これが『恋』って気持ちなの?
自分では判断できず、だけと誰にも聞けず、私は悶々とした日々を過ごした。
そんなある日。
偶然にも、あの人と二人きりになる瞬間が訪れた。
胸が騒ぐ。気もそぞろだ。
間違いない。これは私の初めての恋…そう確信しかけた瞬間、耳の奥でおなかの鳴る音がした。
あ、違う。これは恋なんてものじゃない。
たちまち自分の姿が変わり、巨大化した体が目の前の相手に襲いかかる。
理性は残っていたので、その場に血痕などが残らぬよう、工夫をして相手を食べた。
ここ最近募っていたのは『人間への食欲』だった。
おなかの虫にそれを気づかされ、自分でも知らなかった本性が体を変えた。
私、化け物だったんだ。もう…お父さんもお母さんも何も言ってくれないんたもん。知ってたら、あんなにやきもきしなかったのに。それとも私のこの姿は、どちらか片方だけから譲り受けたものなのかな。
まあいいや。今だって、本能で人を襲えたんだから、いちいち親にあれこれ聞く必要はないよね。
それにしても、食欲と恋をごっちゃにするなんて、とんでもない勘違いだよね。
初感情…完
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