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第一章
今日、髪を刈った。
これまでの自分を肉体からそぎ落とす儀式のように感じられた。床屋の店員には、「本当によろしいんですか?」と問われた。いいと思っているから、注文したんだろうと、また心に邪な感情が生まれたが、見ないふりをした。
藤堂大雅は、鏡に映った自分の姿をみて、苦笑した。別人だ。
作業を終えた店員が、箒で片付けているのは、つい先ほどまで自分の頭から生えていた髪の毛だ。肉体から強制的に切り離されたそれは、生気を失ったかのようにちりとりの中に吸い込まれていく。これは決別だ。過去の自分に別れを告げるための——やはり大雅にとっては儀式だった。
「まじ、すみませんでした。反省しています」
土下座をする。軽くなった頭を、床に擦りつける。鋭い視線が自分に降り注いでいるのを、大雅はひしひしと感じていた。
「頭を丸めた程度で、お前のこれまでの悪行が清算されるとでも思っているのか?」
「いえっ……そんなこと思ってません。これはオレのケジメで……」
「まじ……ではなく、『本当に』、思ってませんではなく、『思っていません』だ」
「はい!」
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