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大雅は大慌てで返事をした。視線を合わせるのも怖い。恐怖に心が折れそうだ。相手の姿を見なくとも感じられる威圧感が、大雅の心をさらに萎縮させる。彼がこの世界において、唯一頭の上がらない相手が、目の前にいるのだ。
「いつまでその格好でいるつもりだ。お前の頭頂部など、見たくもない」
「お、オレ、もう相馬さんの顔、まともに見れません!」
相手が鼻で笑った音が聞こえた。
「大雅、ら抜き言葉だ。見られません、な」
「は、はいっ!」
「いつも言っているだろう。話し言葉を乱すなと。武道に通ずる健全な精神は、普段の所作にも現れる。武道家たるもの、言葉遣いにも気をつけろ」
「はい」
頭を垂れることしかできない。大雅は背中に汗をかいていた。顔を上げればそこに正座しているのは、大雅と十も変わらぬ年端の青年だ。相馬爽平。大雅の通う道場の師範である。
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